ノスタルジーへの体の欲求

私は1人でお茶を飲むのが好きだ。もちろん、家族や友達と一緒に色々お話しながら飲み物をいただくのも楽しいが、初めて入るカフェや喫茶店で、1人で居心地良く寛げた時の悦びは、珍しい昆虫を捕まえたときの小学生の得意さに匹敵するものがある。

私が1人で入って寛げて、楽しい場所。

お店の中の眺めや、窓の外の景色がうるさくないこと。緑があって適度に静かなところ(静か過ぎても緊張する)だと最高である。東京という街は、普通に生活しているだけでも目や耳から入る刺激が圧倒的に多いので、それが削ぎ落とされているだけで随分気持ちが落ち着く。
それと、お店が混みすぎておらず空きすぎていないこと。混んでいると、次のお客さんに席を譲らなきゃ、と気を揉むし、空きすぎていると違う意味で心配になるので。程よく賑わっていて、お店の人も適度に忙しく、お客さんを構いすぎない、そういう雰囲気が大好き。
飲み物はおいしいほうがもちろん良いが、そのお店の全体的な雰囲気とバランスが取れていると安心する。
また、趣味の良い古い食器を直しながら使っているお店というのは、モノを大事にする奥床しさが伝わってきて、好ましく感じる。

こういうお店で、ぼんやりと物思いに耽ったり、途中でとまっていた本の続きを読んだり、色々なことについて反省したり計画を考えたりする時間は、私にとって最高の贅沢の一つかもしれない。

そんな「最高の贅沢」を味わう場所として、私が今一番気に入っているのが、「古桑庵」

カフェ、というのはちょっと違う。茶房、もしくは甘味処 のほうが確かにしっくり来る。
でも、もっとしっくり来るのは、「おばあちゃんのうち」である。

たいそう風流な庵である。なのに、訪れる人を緊張させず、大らかに受け入れる。広い和室に御膳と座布団がひかれていて、大きな窓からはお庭が見える。お庭はそれほど広くはないが、造った人が色々考えて心地よく設えたということがよく分かる。手作りのコースターやティッシュケースも、着物や箱をリサイクルして拵えた可愛らしい和風な小物達である。お日様ぽかぽかの午後は、窓際が特等席である。ときどき隙間風が入ってくるのもご愛嬌。「昔の日本の家ってこうだったよね」とむしろ和むから。気が付くと、足がむずむずして、つい、畳にコロンと寝転がりたくなる。座布団を半分に折って頭の下に敷いて、あったかい縁側で三毛猫でも抱いて転寝できたら、さぞかし気持ちが良いだろう。

人間どんなに偉くなっても、お金持ちになっても、自分の死に方まではなかなか選べないが、できれば、80歳ぐらいまで長生きして、そういう風にお昼寝しながらポックリと死ねたらいいな。

お善哉をいただきながら、そんな先々の自分の人生にまで思いを馳せた私であった。よく考えたら、私のおばあちゃんのうちは全然古桑庵とは違うのだが、なぜか懐かしさを感じる。ノスタルジーへの体の欲求ってあると思う。渇いた喉を潤すように、時々私は「懐かしいもの」が欲しくなる。

「古桑庵」
住所/目黒区自由が丘1-24-23 
電話/03(3718)4203
営業時間/11時~18時30分
定休日/水曜日

Continue reading "ノスタルジーへの体の欲求" »


もう少し詳しく見る日本のIT業界の構図

私は、日本のエンジニアに、よりハッピーになって欲しいし、そうなれるはずだ、といつも思っているので、こういうテーマになると、つい話が前のめりになりがちなので、「まぁ落ち着け」「いやそれは違うだろ」「余計なお世話だよ」等、同業者の方からの愛あるツッコミは歓迎です。

さて、前回のエントリで、日本のITとりわけソフトウェア業界は、もう少し再編されたほうが良いのではないかと書いた。なぜそう思ったのか、もう少し(主にソフトウェア会社側の思惑という観点から)補足しようと思う。

IT業界では、エンジニアの生産性は、人によって10倍程度差があるとよく言われる。→プログラマの労働条件を過酷にしているのは、過酷な労働条件を受け入れるプログラマです
しかし、優秀なエンジニアが10倍給料をもらっているかというと、そうではないと思う。この原因を想像すると、

  • 「AさんはBさんより10倍生産性が高い」ということが、測定しづらい。明確にソフトウェアの構造がモジュール化されていない状態でも、「あうんの呼吸」で全員が渾然一体となって仕事を進めることが多く、個々人のパ フォーマンスが相互に依存し合っているので、個々人の成果が分かりづらいし、本人も「自分はあの人より10倍働いた」と主張しづらい(「能ある鷹は爪隠す」みたいな、文化的なものもあるかもしれない)。
  • 厳密に個々人の生産性を測定するモチベーションが働いていない。顧客にとっては、エンジニアごとの生産性の差を識別するすべがない・その価値がよく分からないので、生産性10倍だからと言って、10倍の単金をチャージできない。エンジニアの人数が多くなると、一人一人の能力に応じて価格設定するのは現実的でない。(計算が面倒だし、下請・孫請・派遣など、色々な会社のエンジニアでプロジェクトが構成されることが多い。しかも、内訳を厳密に顧客に提示することはまずない)丸めて、「1人月幾ら」「1LOC当たり幾ら」と平均化した価格に落とさざるを得ない。 

もう一つの観点として、日本のソフトウェア開発のアプローチは「工場」的(マイケル・クスマノ「ソフトウエア企業の競争戦略」より)だということもあるかもしれない。なるべく、属人的な能力の差によって品質にムラが出ないようにしているということだと思う。きちんと比較したことがないので推測だが、日本の方が、より組織内での標準化を進めているということかもしれない。もしくは、元々ソフトウェアの専門教育を受けていない若い社員を、徒弟制度のごとく先輩社員と組ませ、OJTで育成する過程で、組織のやり方を教えて行くことが多いからというのもあると思う(個人的な実感にも近い)。

ニワトリとタマゴかもしれないが、上述のような状況を踏まえると、日本のソフトウェア会社の基本的な行動規範は、「一人一人のエンジニアの開発能力をなるべく標準化・定型化し、会社全体として稼働率をあげる」方向に向かいがちである。黙って会社に座っていても、ゴリゴリ働いていても、同じ給料を払うんだったら、少しでも社員の稼働率を上げたい。しかも、顧客に請求する額というのは「掛かった時間」「生産した量」だから、部品の再利用やパッケージソフトウェアによって今回作る量を減らすというモチベーションは働きづらい。そもそも、「この機能だったらこのパッケージが使えるからそうしよう」と提案しても誉められない・評価に繋がらない(そういう行動規範がない)し、慢性的に残業が多くて他のプロジェクトの状況を知らないので部品化・再利用もなかなか進まない、だから毎回一からゴリゴリと作る、というループに陥りがちなのではないか。

もう一つ、日本のソフトウェア会社が「生産性をあげる」時に向かう方向は、「少しでも安い人件費でエンジニアを調達する」ことだ。業界全体が過当競争なので「仕事がなくてもエンジニアには給料を払わなきゃいけないんだから、値段が安くても仕事がないよりはまし」になっているか、あるいは、「ここで仕事を取っておきさえすれば保守運用もあるし、次の仕事にも繋がるし」という思惑で、価格を下げる会社が多いのではないかと想像している。

「こんな値段じゃ作れない」と、自社の基準に満たない仕事は断る、それで資金繰りが回らなくなったら、その会社は市場から撤退して、エンジニアは他の会社に移る。こういうサイクルが回るような環境があれば、そのほうがエンジニアは幸せなのではないか?(あと、書きながら思ったが、そもそも、採算ラインを割るような無茶なオファーは、足許を見られているから来るわけなので、そういう条件の悪い仕事しか来ない分野からは撤退した方が良いようにも思う。あるいは、システム開発自体、ソフトウェア会社による差異化があまりなく、コモディティ化している、ということかもしれない)

では、どうすれば脱コモディティ化や生産性向上ができるのか?だが、今のところ、これについての私の個人的な意見は、やはり「部品化」「パッケージソフトウェア化」である。なんか当たり障りない意見で申し訳ないのですが。

今の日本では、パッケージソフトウェアは、まだまだ市場としての規模が小さい。

経済産業省「特定サービス産業動態統計」に基づくJISAの発表によると、平成17年の日本の情報サービス産業は約10兆円(9,726,785百万円)、そのうちソフトウェア開発・販売が7兆円(6,934,075百万円)、そのうちパッケージソフトウェアと思われる「プロダクト」は1兆円程度しかない。しかも、プロダクト型のうち、4割はゲームソフトらしい。日本におけるパッケージソフトウェア単体での販売は、7,000億円弱、つまり、ソフトウェア産業全体のうちパッケージソフトウェアは1割程度ということになる。(※1)

が、これまた根拠も何もない超主観的な直感として、まだまだパッケージソフトウェアによる標準化が可能な領域はたくさんあるのではないか、と思う。前もブログに書いたことがあるが、グローバル市場のトレンドではパッケージソフトウェアは2割ぐらいなので、今でも倍はいって良いはずだし、今後はもっと増えるかもしれない。「生産効率の高いシステム提案で,エンジニアは早く家に帰ろう」──ソフトブレーンの宋文州氏が講演:ITpro には、個人的には激しく同感。ただ、同時に、パッケージソフトウェアをもっと増やすためには変えたほうが良い点は色々あるとも思う。どうなったら良いのか?についての私の考えは、また次回書こうと思う。

(すいません、細切れで。。。でも、ブログって、長くて複雑な話を書くのは難しいので、「本って完全にはなくならないんだろうな」、と、「ウェブ人間論」での梅田さんのコメントに改めて納得する私。)

ソフトウエア企業の競争戦略
ソフトウエア企業の競争戦略 マイケル・A. クスマノ Michael A. Cusumano サイコムインターナショナル

ダイヤモンド社  2004-12
売り上げランキング : 103116
おすすめ平均star


Amazonで詳しく見る
by G-Tools
ウェブ人間論
ウェブ人間論 梅田 望夫 平野 啓一郎

新潮社  2006-12-14
売り上げランキング : 655
おすすめ平均star


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

Continue reading "もう少し詳しく見る日本のIT業界の構図" »


日本のIT業界のマクロな構図

業界内では半ば常識かもしれないが、自分の頭の整理のために書いておきます。

日本のIT業界のマクロな構図として、大手のプレイヤーはみんなコンピューターメーカー系列だという点が特徴として挙げられると思う(IBM、富士通、NEC、日立)。私の理解している範囲で、これまでの経緯をザックリとまとめると、

  • ハードウェアに関しては、国策としてコンピューターメーカーの育成をしてきた。(そのため、元々産業規模の割にメーカー数が多かった)
  • ソフトウェアに関しては、元々は、コンピューターメーカーが高価なハードウェアを買ってもらうために「オマケ」として提供するところから始まった。しかし、メーカーごとに独自のアーキテクチャーが存在したため、いったんユーザーを囲い込んでしまえば、その後の価格交渉はメーカーに有利だった。ゆえに、「最初は値引きで何としてでもユーザーを獲得し、その後の保守運用・サービスで儲ける」というビジネスモデルがしばらく続いた。(ハードウェア部門を持たないシステムインテグレーター、ソフトハウスは、メーカー毎に系列化・ヒエラルキーを形成)
  • オープン・システム時代の到来により、ハードウェアの利益率が低下。会社規模を維持するために、メーカーはこれまで以上にソフトウェア事業に力を入れざるを得なくなったが、どこも同じ状況なのでみんながソフトウェア事業に殺到。しかも、以前よりメーカーを乗り換えるのが容易になったため、価格交渉におけるユーザーの立場が強くなり、オープン・システムの構築・運用の価格相場は低下した。
  • しかし、過去の遺産があるため、採算の悪い事業があっても会社としては潰れない。プレイヤー数が減らないので価格は下げ止まらず、オープン・システム分野では過当競争が続いている

コンピューターメーカー系列以外のプレイヤーとしては、相当メジャー度は落ちるが、ユーザー企業系列のシステム・インテグレーターが存在する。(通信会社系、製鉄会社系、銀行系、商社系など)これは、親会社の業績を良く見せるため等の理由で、情報システム部門を子会社化したところにルーツがある。

いずれにせよ、アメリカと比較すると(※1)、「システム」を構築する要素のうち、ハードウェアとソフトウェアのビジネスとしての分化がそれほど進んでいない(同じ会社が提供している)のが、日本の特徴だと思う。

では、今後どうなるのが良いのだろうか。これについては、(むちゃくちゃ乱暴な仮説だが、)もうちょっと業界再編が進んだほうが良いのかもしれない、と個人的には思っている。採算の悪い会社が市場から撤退し(吸収合併)、業界全体の生産性が改善していかないと、立ち行かないのではないか。

今の日本のIT業界では、パッケージソフトウェアの占める割合が小さく、かなりの部分はカスタムメイドのソフトウェア・SI型が占めていると思うが、この中核たるPMがいない・足りない、と良く聞く。なりたがる人が少ないのだそうだ。そもそも、SE自体が3Kと言われる不人気職種だそうだが、大工(=SE)の世界で棟梁(=PM)が憧れの存在ではなくなっているというのは、かなり危機的な状況なのではないかと思う。

どうやって生産性を改善すれば良いのかについては、また次回以降に考えてみたい。

Continue reading "日本のIT業界のマクロな構図" »


なぜいつもITプロジェクトは失敗するのか?

2005年に米国で遂行されたITプロジェクト17万件のうち、機能、予算、期間等が当初の想定内に収まったものは16%であり、日本でも、「企業IT動向調査2006」(社団法人 日本情報システム・ユーザー協会)によると、システムの仕上がりに満足と回答したユーザーは10%前後だったそうである。(出典:プロジェクトが失敗するのは当たり前?!@IT情報マネジメント

また、私個人がザッと調べてみたところ、よく「ITプロジェクトの成功・失敗確率」の英語文献で引用されているのは、ITプロジェクトの遂行度合いを10年以上に渡って調査しているStandish GroupのCHAOS Reportのようだ。これの2004年度版(調査対象は4万案件)によると

  • 失敗に終わったプロジェクトは全体の15%(1994年は31%)
  • 納期遅延、予算超過、致命的な機能落ち等はありつつ、まぁ何とかカットオーバーにこぎつけた(Challenged) のが全体の51%
  • 上記から逆算すると、成功したのは34%
  • "Challenged"だったプロジェクトの殆どは、20%以内の予算超過
  • 失敗プロジェクトも含め、予算超過案件全体の平均値は「予算を43%オーバー」(1994年は180%)
  • 米国全体で無駄に費やされたプロジェクト費用は$55 billion(1994年は$140 billion)。うち$38 billionが"in lost"、つまり「お金は遣ったんだけど何も生み出さなかった」かな?で、$17 billionが予算超過。

Standish Groupの調査基準の詳細が分からないが、もし仮に、上記の「失敗」の定義が、純粋に「全然システムが作れませんでした~」という事態を指すとすると、これに、「手術は成功しました。患者は死にました」系の広義の失敗プロジェクトを加えると失敗率はもっと上がるだろうから、「成功率は10%台」という数字も、あながちおかしくはないように思える。

まとめると、ITプロジェクトが、予算と納期を守ってカットオーバーし、かつユーザーの期待通りの機能をきちんと提供できる可能性は10に1つ程度らしい。ぶっちゃけた話、ITプロジェクトは殆どが失敗する(広い意味で言うと)ということになる。「10回戦って勝てるのは1回」というのは、ギャンブルで賭ける側とすれば割が良いのかもしれないが、競馬馬だったら良いレースには出れないし、相撲取りだって一場所に1.5勝じゃ出世は厳しいだろう。ましてや戦争だったら、兵士はたまったものではない。

しかし、ITプロジェクトの現場が、爆弾を抱えていたり、火を噴いたりして、火消しが召集され、それでも足りなくて傭兵部隊を投入、なんて話は日常茶飯事だと思う。(これって私の周りだけ?)

最近(に始まった話じゃないけど、)こういうことをよく考えている。頑張っても頑張っても成功しない。これは辛いことだ。でも、現実なんだから、目を逸らすわけには行かない。次回から少しずつ整理しつつ、じゃあどうすれば良いのかも、私なりに考えてみようと思う。

Continue reading "なぜいつもITプロジェクトは失敗するのか?" »


更新をお休みしていた間

1ヶ月もブログをサボっちゃいました。てへ。すいません。

更新をお休みしていた間、何をしていたか?というと、

  • 初めて「システム」の見積を書きました。システムインテグレータに働いて8年近くになるけど、今までは自分の工数ぐらいしか出したことがなかったので。以前、ソフトウェア業界の売上高で見ると、上位はシステムインテグレータとITコンサルばっかりだ、と書いたことがありますが、激しく納得しました。「ソフトウェア」の購入費用に加えて、サーバを置くための建物・フロアの家賃に通信費、電力、監視やヘルプデスク対応するSEの人件費、保守費用 等を積むと、パッケージソフトの額の何倍にもなってしまうんですよね。当然、私一人の作業でなく、「この部分はあの人に」てな具合で、見積自体が一つのプロジェクトでした。
  • そして、その案件は失注しました。詳細には触れませんが、もっとやり方は色々あったなぁ・・・と色々反省しました。一言で言えば、自分自身の腰の入り方が中途半端だったなと。「あれがない、これがない」と言うのは簡単だけど、チーム全体でやらなければいけないことがあって、どれができてて・できてないか を把握しつつ、回ってないところがあったら、どうカバーするか考えなければいけなかったなと、後になって気づきました。
  • 年末年始は久々にベイエリアに行って来ました。約1年ぶりに。景色は全然変わらないのですが、驚いたことが3つあって、①スマートフォンがむちゃくちゃ普及している!1年前から、モノはあったんだけどサービスがあんまりなかった印象がある。しかし今では、携帯でGoogle MapもGmailも見れてしまう。ますます、OSもブラウザもサービスも「ケータイ独自文化圏」を築いてきた日本のガラパゴス諸島化は進むのだろうか。②日本のマンガの英訳版が、本屋の中でメジャーな存在になっている!1年前も、大きな本屋だと棚一つぐらいはあったが、あくまでマイナーな存在だったのが、BordersやBarnes and Nobleでは「コーナー」に昇格されていた。③流れてる曲名が、カーラジオに表示されるようになってる!これは、私の車が中古で、しかもお手頃タイプだったから知らなかっただけで、実は前からあったのかもしれない。でも、どうやってデータ配信してるんだろう。。。
  • 年明け早々、仕様も知らないシステムの導入支援に借り出され、2週間ほど地方巡業をしていました。全くプロジェクトの状況も分からず、客先の人間関係も、指揮命令系統もよく分からない状態でイキナリ放り出されて、現場で故障の切り分け・問合せ対応しなければいけないという、なかなかスリリングな経験でした。しかしながら、修羅場経験者曰く、「大丈夫、大丈夫!まだ全然大したことないよ!だってシステム動いてるし~」だそうです。。。いやいや、まぁ、そうなんだけどね。。。結果から言うと、非常にためにはなったのですが、「冬の金沢」という、食いしん坊にはまたとない機会だったのに、あんまり海の幸を満喫する心の余裕はありませんでした。

そんなこんなでバタバタしており、2007年ようやく初めての更新ですが、今年もよろしくお願いします。


ThinkFreeはGoogleの買収を断る

昨日、「GoogleがオフィスアプリケーションソフトのThinkFreeを買収する方向に動いているらしい」と書いたのですが、そのニュースには続きがあり、ThinkFreeの親会社である韓国のHaansoftは、ThinkFreeのGoogleへの売却を断ったそうです。(徳力さんブログにて知った)ちゃんと最新情報チェックしないとダメだなぁ~、反省。。。。

英語の記事を幾つか見ていて、おそらく源はここだろうと思われる(私が見た範囲では)一番詳しい記事にリンクしておきます。

Google Looks for Korean M&A Target; Korea Times, 12/10/2006

"We hope to make a strategic alliance with Google, but the hitch is that the company does not like alliances. I heard it prefers to scoop up a company rather than cooperate with it,’’ Baek said. (中略) The ThinkFree software has caught the attention of global players because it is available in up to 15 languages and uses only 20 megabytes of memory.

#Googleに対して挑戦的に見えるITProの記事とは、随分口調が違うのですが、(気が弱いので、ホントにあんなこと言ったのぉ?と、)原文を見たところ、「Googleが立ち上げたばかりのワープロやスプレッドシートには基本的な機能しかない」という指摘は、記事を書いた記者さんの意見で、HaansoftのCEO・Baek氏のコメントではないようにも読めます。Korea Timesを見ると、「Googleとはアライアンスが組めれば良いなと思うが、彼らは他社と協力するより、会社をごそっと買い上げるほうが好きみたいだと聞いているから・・・」という感じ。

#まぁ、いずれにせよ、「アライアンスより、相手を買うほうが好きみたい」というコメントも、ちょっと毒が入っていますね。


GoogleのM&Aにみるハイテク業界の技術マーケティング戦略って

徳力さんのブログで、私も以前紹介したことがある韓国系ベンチャーのThinkFreeが、Googleに買収されるかも?という噂があることを知った。 → でも、ThinkFree側は断ったそうです。(12月22日確認)

それを知って、真っ先に浮かんだ感想は、「へぇ、GoogleもYahoo!と変わらなくなって来たなぁ」。

少し前までは、Flickr, Facebook, Overture, Del.icio.usと、綺羅星のごとくその名が響き渡る人気サービスを次々と買収するのはYahoo!の専売特許のように語られていたこともあった。(Yahoo's Strategy: Growth by Acquisition; BusinessWeek, 10/6/2006)

Since Yahoo bought Flickr in March, 2005, it has become one of the top ten networking sites, according to June figures from comScore Media Metrix. Del.icio.us has grown from roughly 300,000 subscribers, when Yahoo bought it in December, 2005, to 1 million this September

また、買収によるYahoo!の成長の影では、自社製サービスとのバッティングや、プロダクトポートフォリオの混乱が起きており、フォーカスの効いたビジョンや戦略、オーナーシップが不明確になっていることに対する警鐘が、社内からあげられたりしている。(Yahoo Memo: The 'Peanut Butter Manifesto' - WSJ.com; 11/18/2006)

で、Googleの動きはどうか、というと、

2003年にBloggersの親会社であるPyra Labsを、2004年7月にはPicasaを、2004年10月にKeyhole(現在のGoogle Earth)を、2005年3月にはUrchin(現在のGoogle Analytics)を、2005年10月にはAOL株の5%を、2006年1月にはラジオ放送用ソフトウェアのdMarc Broadcasting Servicesを、そして今年10月にはYouTube。11月にJotspot。もう最近は多すぎていちいち覚えきれないぐらいだけど、特に、Google VideoがあってもYouTube, Google SpreadsheetとWritelyがあってもThinkFree、というあたりにシタタカサを感じる。(あえて競合させて実験してるのかな?どっちかが転んでも大丈夫なようにリスク分散?とか。。)

参考URL:Google Looks To Boost Ads With YouTube; WSJ, 10/10/2006
Google Acquires Urchin; John Battelle's Searchblog, 3/28/2005
Google Buys JotSpot to Expand Online Document-Sharing Service; WSJ, 11/1/2006

これをどのように評価すべきなのだろうか?

Google論における日本の第一人者、梅田望夫さんは、「『こんなものゼロから作れば俺たちの方がいいものが作れる』という『天才的技術者の発想』より遥かに上位のところで、Googleがきちんと『正しい経営判断』を下す会社になった」と評価されている。

確かにこれは一理あるかも、と思う。「俺たちの方が~」というのは、優秀な技術者を社内に大量に抱えている技術Orientedな会社にありがちな風景なので。しかし、その反面、企業の内側から、そこのコアな分野に関するイノベーションが生まれなくなってくるのは、衰退の兆しだという説もある。

変化の速いハイテク業界でも、ただ闇雲に突っ走っているわけでなく、内部には技術マーケティング・ロードマップに基づく羅針盤がある、という。その中の選択肢としては、必要とあらば、他社の技術を買うという行動も含まれている。技術開発の戦略、その中でも、どういう場合・どういうモノを買収するのか?というM&A戦略はどうあるべきなんだろうか? ということを最近よく考える。

  • 顧客が欲しがっているものを素早く買い取り、ソリューションとして仕立てて提供するうまさに定評があるCisco
  • まさに「俺たちの方がいいものが作れる」で、後発企業をブルドーザーのごとく薙ぎ倒してきたMicrosoft
  • 歴史に名を残す重要な発明を数多く生み出しながら(レーザープリンター、イーサネット、GUI、マウス、オブジェクト指向プログラミング、ユビキタスコンピューティング 等)、どれ一つ社内では事業として成功させられなかったXerox
  • PCアーキテクチャーにおける勝負どころを見誤り、思いがけずに"Wintel"興隆、関連産業の発展の基を開いてしまったIBM

でもまぁ、Googleのコアはやっぱり検索アルゴリズムだろうから、そこ以外のM&Aは普通に経営判断として合理的だろうとも思うし、そもそもシリコンバレーの「世間の狭さ」を考えると、実は両社の社員の中にはフツーに友達同士だったり、「あ~YouTubeね。あそこのXXはいい奴だよ。昔XXで一緒に働いてたんだけど」みたいな感じなんだろうなぁ、と思ったりします。


PS3はポストPC時代を切り拓けるか

そろそろ、コンピューターやソフトウェアは、アーキテクチャーや生態系が「ガラガラポン」(言い換えると、破壊的イノベーション)する時期が近いのではないか?と、1年以上ボンヤリと考えていた。私がそう感じた背景には、

  • パッケージソフトウェア、とりわけ業務アプリケーションの分野では、しばらく、目玉となりうるようなパッとした大規模なモノ(ERP, SCM, CRMみたいな)が出てこなくなってきており、ベンダーの合従連衡もだんだん落ち着いてきたこと → 課題意識を整理するパッケージソフトウェア業界(主にOracle)
  • 世界最大のパッケージソフトウェアベンダーであるMicrosoftが、新しいPC OSを出すのに、5年間もの期間を要したこと。ドッグイヤーの業界での5年間というのは、おそらく、途中で何度もゴールややりたいことが変わっただろうし、方針が変わる中で、いかにこれまでの資産との互換性を維持し、肥大し続ける開発の整合性を取り続けるか、プロジェクトマネジメントにおけるチャレンジだっただろうと思う。(何年か後でも構わないが、Windows Vistaは、ソフトウェア開発・プロジェクトマネジメントにおける重要なケーススタディになるのではないかと個人的には感じている) → Platform Leadershipコンピューター業界に訪れた転換点とは史上最大のプロジェクト
  • PC以外のプラットフォームにおいても、OS開発の規模・複雑性の増加に伴って、複数社による相乗り開発(携帯電話OSが該当するか)、オープンソースソフトウェアの存在感の高まり等、バリューチェーン上、顧客が価値を見出す部分がOSから離れ始めている気配があること→ Big Blueはどこへ行くのか

などがある。

モジュール型アーキテクチャーの代表であるPCが再び転換点を迎えた時、ビジネス構造を変える「ティッピング・ポイント」はどこなのか、ずーーーーっと気になっている。

要素技術の変化や、個々のモジュールを開発している企業の動きをボンヤリ見ていると、何となく、次はチップ周辺かなぁ?と(根拠はないけど)感じていた。グラフィックス分野ではNvidiaと並ぶ二大勢力だったATIがAMDに買収されたこと。そして、昨今盛り上がっている次世代ゲーム機でしのぎを削る3社 - SONY、Microsoft、任天堂 のコンソールにIBMのマイクロプロセッサが採用されていることMicrosoftは、ポストXbox360に向けて、実は自社内でチップの設計を進めているらしいということ。などなど。

ゲーム機は、携帯電話と並んで、「ポストPC」のコンピューター有力候補かもなぁ、と思っている。

で、PS3である。下記はiSuppliのコスト分析を加工したデータになる。

ところで、個人的な主観だが、PS3はゲーム機としては高すぎると思う。画質が良いのはよく分かった。しかし、その差というのは、一般消費者にとって、従来機種よりも4万円も多く払うだけの有意な差なのか?既に、技術革新が顧客のニーズを追い越してしまったような気もする。また、Nvidiaのグラフィックチップの次に値段の高い部品である、自社製のBlu-Ray ドライブがPS3のウリなのだろうが、そんな大容量のゲームソフトの開発は、ボコボコ簡単にできるものじゃないのでは?

ゲーム機の市場シェアはソフトの魅力によって決まる。そう言われて久しいが、既にPS2の時代ですら、ゲームソフトの開発には、1本当たり2年の期間と二桁億円のコストが掛かっていたという。それが更に長期化・高価格化した時に、これまでのような品揃えが実現されるのか?されるとして、それが一体いつなのか?また、PS2の時代で、採算ラインは十万本台とされていたが、それを上回るだけの市場をPS3は、創出できるのだろうか?

このような理由で、個人的には、PS3のゲームビジネスとしての成功には若干疑問を感じている。とは言え、ゲーム機の市場シェア7割を持つSONYの優位が大きく揺るぐことはないかと。リアリティや画質、スペックを求めるハイエンドでコアなゲームユーザーはPS3、もっと気軽に楽しくゲームで遊びたいユーザーにはWii、という感じで住み分けがされる可能性が高いのではないかと思う。

では、ゲーム機、ではなく、「ポストPC」時代のコンピューターとしてどうか、というと、対値段では素晴らしい性能・優れたデザインだとiSuppliは分析している。チャレンジは、その能力をどのように使うかの方だろう。

また、PS3の製品アーキテクチャーとサプライヤーとの関係も興味深い。私は個々の部品の機能や役割にあまり詳しくないので、単純に値段での分析になるが、$800を超えるコストの中で、NvidiaとIBMのチップが1/4以上を占めている。SONY製の部品が占める割合は全体の2割以下だった。但し、(SONY)と書いてある部品をOEM?と推定すると、SONYシェアが5割以上に高まる。

このような構造が、果たして、次世代ゲーム機/コンピューターに対する戦略としてどうかは、また別の機会にもう少し詳しく考えてみたい。


史上最大のプロジェクト

プロジェクトの難しさは、規模に比例して大きくなるのではなく、指数関数的に大きくなるというのは、プロジェクトに関する常識と言って良いと思う。

では、史上最大のプロジェクトは何か?というと、アメリカでは、原爆の開発だったそうだ。そのコストは$20 billion(約2兆円)だといわれているらしい。

そして、それに匹敵する規模だったのが、1万人のエンジニアを5年間投入した、Windows Vistaだそうだ。

「じゃあ、ピラミッドや万里の長城よりも難しかったの?」と内心突っ込んだのだが、Wikipediaによると、ピラミッドの総工費は1,250億円、工期5年、最盛期の従業者人数3,500人という試算を大林組が出したことがあるそうで、実はWindows Vistaよりも規模としては小さい可能性が分かった。また、万里の長城は2,000年以上掛けて建造されたとのことだが、人数は不明。

今やソフトウェア開発プロジェクトは、歴史に名を残すほどの複雑性・困難さを伴うようになりつつある、ということなのだろうか?それに見合うだけのプロジェクトマネジメント技術・方法論は、確立されてきているのだろうか?

Takahashi: Why Vista may be last of its kind
2006/11/30, Mercury News

If we assume Microsoft's costs per employee are about $200,000 a year, then the estimated payroll costs alone for Vista hover around $10 billion. That has to be close to the costs of some of the biggest engineering projects ever undertaken, such as the Manhattan Project that created the atomic bomb during the Second World War. (Wikipedia says the bomb cost $20 billion in 2004 dollars.)


wiiはお茶の間エンターテインメントを変えるか(2)

前回に引き続き、任天堂のwiiの競争戦略について考察する。前述した通り、ゲーム市場全体が飽和気味という環境下なので、

  1. 競合にどう勝つのか?
  2. 従来とは違う市場セグメントをどう切り拓くのか?

という二つの観点が必要だろう。

前回も書いたように、wiiプレビューや岩田社長プレゼン等を見て、「これを単純にゲーム機と考えてよいのだろうか?」と感じたことから、まずは「2. 従来と違う市場セグメントの開拓」という観点から。大きく、次世代の「お茶の間エンターテインメント」市場を巡る動きについて私見を述べたい。

任天堂のwiiに限らず、確かに少し昔から、近未来のライフスタイル「コンテンツを様々なデバイスで利用する」という姿は色々な会社・業界によって色々な言葉で表現されてきた。マンガで表現するとこんな感じ。

真ん中の赤い箱は、デジタル・ハブとかメディア・センターとか様々に呼ばれるが、今のところPCが一番近いポジションに付けているように思う。また、「コンテンツの販売・流通(右側の雲=インターネットの向こう側)」「コンテンツを表示・利用するデバイス」「コンテンツ管理・制御」は、同じプレイヤーかもしれないし別々かもしれない。私個人は、このライフスタイルが実現された世界で覇権を握ろうとしている有力企業は下記ではないかと思っている。

  • SONY
  • Microsoft
  • Apple

また、この競争で最も統合的なビジネスモデルを構築しつつあるのは、Appleだと思う。

インターネット上のiTunes Music Storeで音楽コンテンツを販売し、それ以外の媒体(CDとか)も含めたコンテンツ管理のためのソフトウェアiTunesと、コンテンツを再生するためのパーソナルデバイスiPodを提供しており、音楽コンテンツに関しては、オンライン/オフライン含めた販売額で全米5位に付けている。しかも、これまでコンテンツ自体は、Appleの設定した土俵に乗っかってくれる企業に依存していたが、ジョブズがディズニーの経営に関わっていることから、動画コンテンツそのものに関しても優位に立てる可能性がある。たぶん将来的には、赤い箱の場所にマッキントッシュを置くのがAppleの目標であろう。これは、以前WWDCへ行った時から感じていたことだが、その後も着々と布石を打っているようだ。(「今日の本当の目玉は・・・」以降を参照)

コンテンツを買い、それを利用・管理するという、顧客の一連の用事に対して、インターネットも含めたシームレスなエクスペリエンスとブランドを構築していることがAppleの強みである。だから、必要なソフトウェアとあらば躊躇なく他社を買収し、iPodもマッキントッシュも、主な部品は他社から買ってくる。

他の2社はどうかと言えば、SONYは「イノベーションのジレンマ」に陥り、ポータブルHDDプレイヤー市場には完全に出遅れたし、PS2があまりに成功したからかPS3投入のタイミングは遅すぎたのではないか?とも言われる。ただ、AV製品やPC、携帯電話までメジャーなデバイスは全て持っていて、ゲーム・映画等のコンテンツも有する点では非常に重要なポジションにいる。Microsoftは、Xboxで次世代ゲーム機をいち早く市場に投入し、欧米では完全に「小型PC」化しつつある携帯電話市場でも着実にポジションを固め、最近Zuneを出してきた。かつては「世界中の全てのPCにWindowsを搭載する」ことが野望だったろうが、今では「世界中の全ての"コンピューター"にMicrosoftの技術を搭載する」と考えているのでは?と感じるほどである。Microsoftは、「PC単体でできること」で需要を喚起することがいかに大変になってきたかが身に沁みている分、必死で攻めてくるだろう。

この他にも、アメリカだけを見ても、コンテンツサイドから触手を伸ばそうとしているのはComcast等のケーブルTV、それから通信キャリア等がある。

●では、任天堂はどうか?

前述のように、任天堂の売上は、台数/本数ベースで8割弱が日本以外の市場である。従って、否応無しにグローバルでの競争に巻き込まれるだろう。しかし、これら世界のビッグプレイヤーがひしめく市場に、任天堂はどのように勝負を挑むつもりなのだろうか。

個人的な主観としては、おそらく、上記のようなお茶の間エンターテインメントの総合企業と真っ向から戦わず、「あくまで、消費者にとっての"一つのチャンネル"を提供する」ことが念頭にあるのではないかと思う。アメリカのケーブルTVだと月$50ぐらい払えば50チャンネル以上見れて(確か)、中には、日本語専門チャンネルとかスペイン語チャンネル、もっとマニアックに、一日中スポーツとかSci-Fi「だけ」を流しているチャンネルまである。しかも、一般的にはそれがアメリカのケーブルTVの最低ランクなのである。(実はもっと低ランクのものもあるが、儲からないらしく、あまり公にされていない)

「だったら、ゲームというチャンネルがもう一つあっても構わないでしょ?」というのが任天堂の提案なのであろう。

また、50個もチャンネルがあっても、多くの消費者は全部は見ないだろう(実際、私は殆ど見なかった)。自分の好きなチャンネルの番号を何個か覚えるか、好みの番組が写るまでリモコンでサーチし続けるというのが、TVを見る際の消費者の一般的な行動パターンだとすれば、「お好みのチャンネルをwiiに登録しておいたらどうですか?」という使い方はあるかもしれない。

それでも私が任天堂はゲームチャンネルに特化するのではと思った理由は、

  • ゲームは元々ソフトとハードの統合度の高い製品アーキテクチャー(ハードが替わると互換が効かない)であり、汎化設計されていないため、ゲーム以外のコンテンツを載せた場合の品質・性能は最適化されていないのではないか。
  • wiiのCMやWebサイトを見ても、リモコンを動かしてゲームを行なうという新しいUI等に関するアピールが殆どで、ゲーム以外では具体的にどのようにコンテンツを利用できるのか、提供できるのか、wiiを使うとどう嬉しいのかが分からない。メッセージが感じられない。
  • ゲームとその他のエンターテインメントでは、ビジネスのバリューチェーンや必要な能力が異なるが、今の任天堂に、ゲーム以外の領域にまで進出するための能力/意欲があるかどうかが読み取れない。

よって、ゲーム以外のビジネスについては、任天堂はユーザーにとってのインターフェースとデバイスを提供し、他社との協業によって実現する可能性の方が高いのではと思う。

どちらかというと、私の目を惹いたのは、ゲームソフトの開発コスト・期間を低減させるという取組みだった。ゲームソフトの開発には下記のようなリスクがあるが、それを低減させられるのではないかと感じたので。

  • ゲームソフト市場は、自由度の高い環境の中で数多くの企業が競争を繰り広げ、消費者の微妙で主観的な評価にさらされる製品を次々に送り出すことによって成り立っている市場である。結果として、製品のサイクルは短く、製品の価格弾力性は低く、製品の売行きに関する不確実性は高い
  • 製品企画の提案からマスターアップに至るまでの時間は、最低でも1年はかかり、平均的には1.5~2年
  • 開発に携わる人員数は、数十人が平均的、プロジェクトによっては100人を超える
  • 開発される製品の大規模化、複雑化により、費用は少なくとも数千万円、大規模プロジェクトでは数億円(以上は、藤本隆宏・安本雅典「成功する製品開発-産業間比較の視点」の生稲史彦「家庭用ゲームソフトの製品開発」より)

開発ツールを安価で提供する、他の次世代ゲーム機に比べて短い期間で開発が可能だというのは、かつてMicrosoftがPC市場で自社プラットフォーム を普及するために、魅力あるソフト開発に腐心し、サードパーティに対して開発ツール(Visual Studio)を提供したのと構図としては非常に似ている。

従って、任天堂の強みは、ハード(部品レベルの開発から他社と密接に協業している様子はインタビューからも伺える)からソフトまで含めたゲームという製品アーキテクチャーと、小売も含めたビジネスバリューチェーン全体のアーキテクトである点なのではないかと思う。

余談だが、ここまで開発が大規模化していて、しかもきっとこの業界もロングテールだろうし、ぶっちゃけゲーム開発ってベンチャーを興すのと変わらないリスクではないか?と思った。ゲームソフトベンダーの資金調達って一体どうなっているのだろう。激しく気になる。

但し、これはあくまでゲーム業界のアウトサイダーの私が公開情報から読み取った範囲なので、このエントリにもし業界の方からのツッコミが入ればとても嬉しい。

(データは任天堂のアニュアルレポートより。単位は百万ユニット)

●ゲームは実際のユーザーと購買者が異なっており、購買者をいかに説得するかがカギ

では、再び視点をゲームに戻し、ゲーム市場で任天堂(あるいはその競合)にとってのチャレンジが何かを考察して行きたい。

前述の通り、日本で最もゲームをよくするのは10代のようだ。とすると、ゲームユーザーは、ゲーム機本体・ゲームソフトを親もしくは祖父母に買ってもらっている可能性が高いのではないか。CESAの一般生活者調査報告書によると、「誰が購入し、誰が利用することが多いか」という質問に対する単数回答では、「家族に買ってもらい、自分も家族も利用する」(37.2%)、「自分で購入し、自分だけが利用する」(24.3%)、「自分で購入し、自分も家族も利用する」(19.8%)となっており、仮説としては悪くなさそうだ。

とすると、ゲームメーカーは、ユーザー本人に「欲しい」と思わせると同時に、実際の購買者である親もしくは祖父母に、「自分や兄弟姉妹もやるだろうから、まぁいいか」と思わせなければいけないということになる。

ET研でも、「コレを買ったら孫が遊びに来る」と言われてついゲームを購入してしまう祖父母、という構図が指摘されていたが、家族みんなでゲームに興じる 姿を強調するwiiのCMは、まさに、難しい年頃の子供や孫ともっとコミュニケーションしたい親心・祖父母心をくすぐるうまいマーケティングである。

●テレビ周りのスペース(空間)を巡る戦い

可処分所得が高く、独身1人暮らし・もしくは実家だが自分の部屋にテレビがある状態のコアなゲーマーは、PSとwiiを両方買ったりするだろうが、家族と一緒に暮らしている場合これが問題になるのではないか。我が家の場合、テレビを取り巻くのは、ビデオ、PS2、英語版DVDプレイヤー、CD/MDプレイヤー、アンプ、スピーカー3つ、ラックから溢れているDVDとCD達 である。夫が何か買おうとすると、「これ以上モノをどうやって置くの!」と私が止めるという構図になる。なので、DVDソフトの箱3つ分で収まるwiiの筐体サイズは、こういうお茶の間の事情に対する配慮もなされていると感じた。ちなみに我が家の場合、PS2を買った時の夫の論理は、「DVDも見れる」であった。当時うちにはDVDプレイヤーがなかったので。実際、今でもDVDプレイヤーとして使うことの方が多い。

なので、wiiを買うユーザーでも、PS2はDVDプレイヤーだと思うことにする人はDVD無し版、「いやもうこれ以上テレビ周りにモノを増やすのはやめてくれ」という人はPS2やDVDプレイヤーをしまいこんでDVD付き版のwiiを買うのだろう。直感的には前者の方が多い気がするので、wiiの初期バージョンがDVD再生機能を持たないのは非常にリーズナブルだと思う。場所が狭いのも辛いが、今ある機器を捨てるのは心理的に抵抗があるので。

というわけで、ひとまず、任天堂のwiiはゲームとしてはなかなかイケてるんじゃないか、というのが私の結論なのですが、XboxやPS2/PS3との比較はそのうち(気が向いたら・・・)やるかもしれません。

PS3は、早速徹底的にバラされているようで、iSuppliという会社が部品レベルでのコスト構造分析を発表していて面白いと思いました。現時点では一台当たり$240~$300前後の赤字と試算されています。ただ、Xboxも当初は赤字だったものの、1年も経てば製造コストはドカンと下がって黒字化しているので、ゲーム機のライフサイクルを考えると殊更おかしくはないかもしれません。ちなみに、PS3の中で最も単品で高い部品は、Nvidiaのプロセッサ($129)。次いで自社のBlue-Ray Optical Drive ($125), IBMのプロセッサ($89)の順に続いています。