ノスタルジーへの体の欲求
自分と社会と仕事と (2)

マイケル・クスマノ「サービス・イノベーションの重要性」

一橋大学イノベーション研究センター創設10周年記念国際シンポジウム 「イノベーション研究のフロンティア-日本の国際競争力構築に向けて」に参加して来ました。

このブログをご覧になった方には、一目瞭然かもしれませんが、「ソフトウェア産業」「イノベーション」「日本の国際競争力」は、三度の飯の次ぐらいの私の大好物です。なので、今日のセッションはいずれも面白くて、終日興奮しまくりでした。いや~、こんな充実したカンファレンスが無料とは、何て太っ腹なんだ!>一橋大学&日経新聞

しかも、クスマノ教授の著書、とりわけ「ソフトウエア企業の競争戦略」「プラットフォーム・リーダーシップ」は私の座右の書。もう、教授の話が生で聴けて、直接質問させていただいて、しかも、講演の後には"The Business of Software"(ソフトウエア企業の競争戦略の原著)にサインまでいただいたので(そのために家から本を持参した)、超満足です。

そんなわけで、まずは、一番楽しみにしていたクスマノ教授の講演の議事メモからアップします。(講演資料は後日ウェブで公開されるそうです)講演のキモは、

  • 2001年以降、ソフトウェア業界では、深刻なコモディティ化によってプロダクト(≒パッケージソフトウェアのライセンス)売上が減少している。
  • プロダクト売上の減少を補うものとして、業界全体的に「サービス」の割合・重要性が増してきている。
  • ソフトウェア企業のビジネスモデル(レベニューの上げ方)は、多様化してきている。
  • しかしながら、プロダクトとサービスの売上高の割合の変化という事象の捉え方として適切なのは、「個別企業のビジネスモデルの変化」なのか、「プロダクトライフサイクルの変化」なのかは分からない。
  • また、サービスの重要性が増していることについて、これが一時的なトレンドなのか、今後もずっと続くものなのかも、分からない。

●これまでのソフトウェア・ビジネスのメカニズム

サービスというのは、「プロダクトが売れなくなった会社にとっての墓場だ」(Scott McNealy)という言葉もあるように、一般的には、労働集約的で、プロダクトに比べて利幅も薄く、人数を増やす以外に売上を伸ばす方法がないと考えられています。

しかしながら、プロダクトを売ると、それに伴うメンテナンスやカスタマイズ、コンサルティング等サービスも含めると、ソリューション全体としての売上はプロダクトの単価の約3倍になるため、究極的には、「プロダクト自体はタダだけど」というビジネスモデルになることがあります。例えば、Linux等のオープンソースソフトウェアに対するサービスを提供するRed Hat等。他業界では、今日GMは自動車そのものを売っても利益は出ておらず、ローン等の金融サービスで儲けている といった事例があります。

それから、サービスはコモディティ化しづらい。急に売上が減ることがない。というメリットもあります。

※このパートに関しては、「ソフトウエア企業の競争戦略」に詳しく書かれています(講演は初めての人にもわかるようにサマリを説明している感じだった)ので割愛しますが、未読の方は、ご参考として私のレビューをご覧下さい。

●現在ソフトウェア・ビジネスに起こっているイノベーションとは

ITバブルを境にして、業界のマクロな変化としては(上場しているITサービス企業のデータを分析した結果)、

  • 1999年をピークに、上場企業数は減少してきている
  • 売上高に占めるプロダクトの割合は、1997年をピークに減少してきている

それから、プライシング・モデルが変化してきているそうです。少し前までは、「購入時の初期ライセンスフィー」が代表的かつ主要な課金方法でしたが、「プロダクト自体は無料(サービスは有料)」「オープンソース」「広告による収入(なのでユーザー自身が直接お金を払うことはない)」「利用量に応じた料金」等の新しいモデルが登場してきており、しかも、そういう戦略を取るソフトウェア企業が増えてきているそうです。

●今後ソフトウェア企業が考えるべきこととは

  • ソフトウェアプロダクトをハードやサービスに組み込んだ形で(Embedded)提供する
  • 継続的なサービス提供を前提とした「プラットフォーム」的な仕組みを構築する
  • サービスのR&Dにもっと投資する

●サービスの重要性が増すソフトウェア産業におけるグローバリゼーションは?

顧客ニーズの標準化・一般化がプロダクト化のキモであり、サービス化のキモは、「顧客個別のニーズをとらえる」ことにある。必然的に、サービスビジネスにおいては地域性が重要になるだろう。ソフトウェア企業のグローバル化の方向性として考えられるのは、

  • メソドロジーやフレームワーク、アプローチ等をグローバルで共通化するが、デリバリはそれぞれの国・地域に合わせてカスタマイズする:Accenture, IBM Global Services
  • 顧客との接点をもち、個別具体的なニーズをおさえるところはローカルコンタクトを活かし、製造工程等をインドへアウトソースする

ちなみに、インドのITO/BPOアウトソーサー最大手のInfoSysは、年40%の成長を続けており、従業員数は既に6万人。今後1年で3万人採用を予定しているそうです。インドのソフトウェア企業は、低コスト・Operational Excellenceが競争優位のポイントだそうです。(日本は元々閉じた市場だし、プロダクトが弱くてサービスが圧倒的に優位なので、今後日本のソフトウェア企業はどうすべきだろうか?についても、もう少し聞いてみたかった。。。)

●このままソフトウェア産業はsaturationしてしまうのか?disruptive technologiesは再び出てくるだろうか?出てくるとしたら、どの辺り?

これにはクスマノ教授も、「分かりません!」とのことでした。

ちなみに、会場内で多数決を取ったところ、

  • 「今のソフトウェア産業の状況は、プラットフォームがPCベースからインターネットへシフトする過程の一時的なものであり、また活発にプロダクトが出てくるようになる」という楽観派
  • 「もうソフトウェアは完全にコモディティ化したので、今後は新しいものはそんなに売れない。後は個別ニーズに応じたサービスだけだろう」という悲観派

圧倒的に、悲観派が多数を占めました。(私個人はマイノリティの楽観派です。前にもブログに書いたことがありますが。 → 課題意識を整理する

Comments

ぜんがめ

この分野とんと素人(素人でいいのか?自分)ですが、

* ソフトウェアプロダクトをハードやサービスに組み込んだ形で(Embedded)提供する
* 継続的なサービス提供を前提とした「プラットフォーム」的な仕組みを構築する

というところが、「AppleのiPod(今後は、iPhoneも含まれる)+iTunes(Store)はプラットフォームである(最近の持論)」に当てはまるのかなと思ったりしました。

Tomomi

ぜんがめさん、

> AppleのiPod(今後は、iPhoneも含まれる)+iTunes(Store)はプラットフォームである

は、すばらしいポイントです!
今のところ、Appleは、デジタルコンテンツ消費のバリューチェーンで、憎いまでのビジネス統合に成功していますよね。

ayustety

このイベントに申し込んでいたのに、仕事で行けませんでした……

で、このエントリを読みながら考えていたのは(っちゅーか、普段から考えてることなのですが)、ハードウェアがコモディティ化し、ソフトウェアもコモディティ化したけれど(いずれも”財”のコモディティ化な訳ですが)、サービスってコモディティ化しないのかしら?ということなんですけれど、どう思われますか?

Tomomi

ayustetyさん、
おお、申し込まれてたんですね!会場でお会いできなくて残念でした。
サービスのコモディティ化、ですけど、うーん、「人の知恵・手作業」が伴うので、モノに比べるとコモディティ化の速度は遅いのでは??と、私個人は思うのですが、いかがでしょう。。
ただ、比較的単純な作業から、徐々に付加価値が下がって、人件費の安いところやシステムに置き換えられていくかもしれませんが。コールセンターのオフショアリングなどはその好例かもしれません。(それでも、相当オフショアリングの障壁は高いみたいですが)

通りすがり

いつもROM専でしたが、初めて投稿させて頂きます。

最近、フリーソフトウェアと言うものが増えていますよね?
1.これらソフトの作成者は、どうやって金儲けをしているのか?
2.今後フリーソフトウェアが増えると、既存のソフト会社はどうなるのか?
3.日本のソフトウェア産業には悲観的な印象を持っているのですが、今後どうなると思われますか?
(コモデティ化する→無料で配布する と言うロジックでしょうか?)

突然の書き込みで失礼ですが、コメント頂ければ幸いです。
クスマノ氏のレクチャーは過去に受けたことがあるのですが、非常に上手に日本のソフト産業を分析されていると思います。
今後とも彼の著書や発言には注力していくつもりです。

では


Tomomi

こんにちは。私もクスマノ教授のファンなので、同じように感じる方からコメントいただけて嬉しいです。

まず最初に、フリーソフトウェアが登場した背景ですが、私は下記のように推察しています。

・プログラミングが好きで好きで仕方がない技術者が存在すること。
・しかし、彼ら/彼女らも、会社では、管理の仕事が多くなり純粋にプログラミングだけできないこと。
・通常、ソフトウェア企業で働いていても、社員の業務は細分化されており、質を追求すればするほど、仕事の価値やすごさを共有して語り合える仲間の数は減ること。

このような状況から、

・好きなプログラミングを思いっきりやりたい。
・自分の作品を評価/承認してくれ、高め合える仲間が欲しい。
・できれば、世のため人のために役に立ちたい。

といった、コミュニティが形成されていったのかな、と思っています。OKwebみたいなコミュニティが成立するのも、「自分の知識や経験を誰かに認めてもらいたい」「人の役に立ちたい」という人間のベーシックな動機に基づいているからでは?

なので、ご質問に対する私の意見をお伝えしますと、

1.フリーソフト開発者は、昼間はどこかの会社で働いてお給料をもらっている。
2.フリーソフトやオープンソースが登場する分野は、(少なくとも現在は、)企業の差異性・競争優位に直接的な関連が大きい部分(=業務アプリケーション)までは波及せず、基盤的な部分にとどまっているため、「ソフトウェア」産業全体で見ると、メジャーな割合を占めるシステムインテグレーター・カスタムメイドのソフトウェア開発企業への影響は少ない。
3.当面は、基盤的なソフトウェアから徐々にコモディティ化してゆき、通りすがりさんご指摘のように、無料配布&サービス(コンサルティングやカスタマイズ)のモデルになるだろうが、現在のソフトウェア産業のメジャーな部分を占めているのは、「ウチの会社は他とは違う」と思っている企業ユースの業務アプリケーションの注文が中心なので、急速に大きく現在の業界構図が変わるとは思わない。

ただ、S/360やWindowsの登場でソフトウェア産業が大きく変わったように、それと同じぐらいのインパクトのあるソフトウェアアーキテクチャーの根本的な変革が起こった場合は、また違ってくるかもしれません。

とは言え、今のところ有望視されているWebサービス・SaaSといった、分散型のアーキテクチャーも、Salesforce.com等のビジネスモデルを見ている限り、今の時点では、まだかなり制約があるのかなあと感じています。そんなわけで、今後2-3年で大きく現在の構図が変わることはないとは思いますが、10年後とかになると、どうなってるか私も分からないですね~。。。。

佐藤 徹

大変有用な情報(というか、とても良くまとまった情報)をありがとうございます。

iPodに関して:
AppleはiPodとiTunesの組み合わせをプラットフォームとは公表していません(まちがいなく考えてはいるはず)。いまのところiPodはあくまで音楽を楽しむための専用デバイスであり、iTunesは楽曲とビデオを提供するサービスと位置づけており、「プラットフォーム」と言わない事によって競合相手を自ら完全に絞っています。それがゆえに勝てるのだと思います。
それにしてもサービスをハードウエアにEmbeddedするのはものすごくむずかしい。Appleのようにめちゃくちゃ攻撃的なマーケティングのように見せかけて実は控えめな戦略をとるのが良いのかもしれません。

フリーソフトに関して
Appleもサーバ製品は製品の大半をオープンソースに対するサービスの形で提供しています。ともみさんご指摘の通り、企業の基幹業務はターゲットになっていないので存在する事が可能となっているのでしょう。
オープンソース開発者は純粋なモチベーションが企業の利益管理に邪魔されないようにするためにオープンソースへと向うわけですが、開発者は自分のモチベーションが活かされて、なおかつコミュニティーに貢献するために、分野を極限まで絞って選択する必要があります。この「なにを選ぶか」という作業に対する時間の配分によってプロジェクトの品質が決るような気がします。
日本のオープンソースコミュニティーを見ていると開発者に幅広い知識とバランス感覚を求めてしまう傾向があり、先鋭的な開発者が出てくるのを妨げているように思われます。梅田さんが著書で書かれていたように、若いオープンソースコミュニティーを見守る寛容な大人のほうが不足しているのかもしれません。

とかなんとか言っている私は年のせいかめっきり気力が衰えて、何事にもやる気のない毎日を過ごしているので、そろそろ新しい刺激のネタを探さないといけないですねえ。。。

Tomomi

佐藤さん、こんばんは
コメントを拝見して、前回はオープンソースについて、一つ書き忘れていたことがあったなと気づきました。

日本の状況は、恥ずかしながら詳しくは存じ上げないんですが、アメリカでは、Linuxコミュニティに最も貢献しているのはIBMだと言われています。大量の技術者を投入しているそうです。OSに関しては、1社でクローズドに開発するやり方がそぐわない時代になってきている、と敏感に察知したのでしょうか。なので、プログラミング好きな人がピュアに集まっている、というだけではないのが、オープンソースムーブメントの、知られざる、でも重要な側面なんじゃないかと個人的に思っています。

IBMのこの動きも、「サービス」の重要性の相対的な増加、と一致していますよね。というか、10年も前に自らをサービス企業だ、と再定義しなおしたガースナーの先見性と意志の強さは、ただものじゃあないというか。

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