ノスタルジーへの体の欲求
February 26, 2007
私は1人でお茶を飲むのが好きだ。もちろん、家族や友達と一緒に色々お話しながら飲み物をいただくのも楽しいが、初めて入るカフェや喫茶店で、1人で居心地良く寛げた時の悦びは、珍しい昆虫を捕まえたときの小学生の得意さに匹敵するものがある。
私が1人で入って寛げて、楽しい場所。
お店の中の眺めや、窓の外の景色がうるさくないこと。緑があって適度に静かなところ(静か過ぎても緊張する)だと最高である。東京という街は、普通に生活しているだけでも目や耳から入る刺激が圧倒的に多いので、それが削ぎ落とされているだけで随分気持ちが落ち着く。
それと、お店が混みすぎておらず空きすぎていないこと。混んでいると、次のお客さんに席を譲らなきゃ、と気を揉むし、空きすぎていると違う意味で心配になるので。程よく賑わっていて、お店の人も適度に忙しく、お客さんを構いすぎない、そういう雰囲気が大好き。
飲み物はおいしいほうがもちろん良いが、そのお店の全体的な雰囲気とバランスが取れていると安心する。
また、趣味の良い古い食器を直しながら使っているお店というのは、モノを大事にする奥床しさが伝わってきて、好ましく感じる。
こういうお店で、ぼんやりと物思いに耽ったり、途中でとまっていた本の続きを読んだり、色々なことについて反省したり計画を考えたりする時間は、私にとって最高の贅沢の一つかもしれない。
そんな「最高の贅沢」を味わう場所として、私が今一番気に入っているのが、「古桑庵」
カフェ、というのはちょっと違う。茶房、もしくは甘味処 のほうが確かにしっくり来る。
でも、もっとしっくり来るのは、「おばあちゃんのうち」である。
たいそう風流な庵である。なのに、訪れる人を緊張させず、大らかに受け入れる。広い和室に御膳と座布団がひかれていて、大きな窓からはお庭が見える。お庭はそれほど広くはないが、造った人が色々考えて心地よく設えたということがよく分かる。手作りのコースターやティッシュケースも、着物や箱をリサイクルして拵えた可愛らしい和風な小物達である。お日様ぽかぽかの午後は、窓際が特等席である。ときどき隙間風が入ってくるのもご愛嬌。「昔の日本の家ってこうだったよね」とむしろ和むから。気が付くと、足がむずむずして、つい、畳にコロンと寝転がりたくなる。座布団を半分に折って頭の下に敷いて、あったかい縁側で三毛猫でも抱いて転寝できたら、さぞかし気持ちが良いだろう。
人間どんなに偉くなっても、お金持ちになっても、自分の死に方まではなかなか選べないが、できれば、80歳ぐらいまで長生きして、そういう風にお昼寝しながらポックリと死ねたらいいな。
お善哉をいただきながら、そんな先々の自分の人生にまで思いを馳せた私であった。よく考えたら、私のおばあちゃんのうちは全然古桑庵とは違うのだが、なぜか懐かしさを感じる。ノスタルジーへの体の欲求ってあると思う。渇いた喉を潤すように、時々私は「懐かしいもの」が欲しくなる。
「古桑庵」
住所/目黒区自由が丘1-24-23
電話/03(3718)4203
営業時間/11時~18時30分
定休日/水曜日
※本日のエントリのタイトルは、山田詠美のエッセイ集 "Make Me Sick" の中の一文より引用しました。
おひさしぶりです。
僕も一人で喫茶店に入るのが好きです。
いいですねー。暇をつくって行ってみたいです。
ところで、「珍しい昆虫を捕まえたときの小学生の得意さ」という喩えは活き活きとしてて巧いですね!
Posted by: クマダイサム | March 04, 2007 at 08:34 PM
クマダイサムさん、
こんばんは。古桑庵はいいですよー。時間が止まります(笑)
クマダさんもオススメのお店があったらぜひ今度教えてくださいませ。
「珍しい昆虫」気に入っていただけたみたいで嬉しいです。
「ちょっとした冒険」って、夏休みの少年ぽいよなーと思ったもので。
Posted by: Tomomi | March 04, 2007 at 11:58 PM