PS3はポストPC時代を切り拓けるか
December 16, 2006
そろそろ、コンピューターやソフトウェアは、アーキテクチャーや生態系が「ガラガラポン」(言い換えると、破壊的イノベーション)する時期が近いのではないか?と、1年以上ボンヤリと考えていた。私がそう感じた背景には、
- パッケージソフトウェア、とりわけ業務アプリケーションの分野では、しばらく、目玉となりうるようなパッとした大規模なモノ(ERP, SCM, CRMみたいな)が出てこなくなってきており、ベンダーの合従連衡もだんだん落ち着いてきたこと → 課題意識を整理する、パッケージソフトウェア業界(主にOracle)
- 世界最大のパッケージソフトウェアベンダーであるMicrosoftが、新しいPC OSを出すのに、5年間もの期間を要したこと。ドッグイヤーの業界での5年間というのは、おそらく、途中で何度もゴールややりたいことが変わっただろうし、方針が変わる中で、いかにこれまでの資産との互換性を維持し、肥大し続ける開発の整合性を取り続けるか、プロジェクトマネジメントにおけるチャレンジだっただろうと思う。(何年か後でも構わないが、Windows Vistaは、ソフトウェア開発・プロジェクトマネジメントにおける重要なケーススタディになるのではないかと個人的には感じている) → Platform Leadership、コンピューター業界に訪れた転換点とは、史上最大のプロジェクト
- PC以外のプラットフォームにおいても、OS開発の規模・複雑性の増加に伴って、複数社による相乗り開発(携帯電話OSが該当するか)、オープンソースソフトウェアの存在感の高まり等、バリューチェーン上、顧客が価値を見出す部分がOSから離れ始めている気配があること→ Big Blueはどこへ行くのか
などがある。
モジュール型アーキテクチャーの代表であるPCが再び転換点を迎えた時、ビジネス構造を変える「ティッピング・ポイント」はどこなのか、ずーーーーっと気になっている。
要素技術の変化や、個々のモジュールを開発している企業の動きをボンヤリ見ていると、何となく、次はチップ周辺かなぁ?と(根拠はないけど)感じていた。グラフィックス分野ではNvidiaと並ぶ二大勢力だったATIがAMDに買収されたこと。そして、昨今盛り上がっている次世代ゲーム機でしのぎを削る3社 - SONY、Microsoft、任天堂 のコンソールにIBMのマイクロプロセッサが採用されていること。Microsoftは、ポストXbox360に向けて、実は自社内でチップの設計を進めているらしいということ。などなど。
ゲーム機は、携帯電話と並んで、「ポストPC」のコンピューター有力候補かもなぁ、と思っている。
で、PS3である。下記はiSuppliのコスト分析を加工したデータになる。
ところで、個人的な主観だが、PS3はゲーム機としては高すぎると思う。画質が良いのはよく分かった。しかし、その差というのは、一般消費者にとって、従来機種よりも4万円も多く払うだけの有意な差なのか?既に、技術革新が顧客のニーズを追い越してしまったような気もする。また、Nvidiaのグラフィックチップの次に値段の高い部品である、自社製のBlu-Ray ドライブがPS3のウリなのだろうが、そんな大容量のゲームソフトの開発は、ボコボコ簡単にできるものじゃないのでは?
ゲーム機の市場シェアはソフトの魅力によって決まる。そう言われて久しいが、既にPS2の時代ですら、ゲームソフトの開発には、1本当たり2年の期間と二桁億円のコストが掛かっていたという。それが更に長期化・高価格化した時に、これまでのような品揃えが実現されるのか?されるとして、それが一体いつなのか?また、PS2の時代で、採算ラインは十万本台とされていたが、それを上回るだけの市場をPS3は、創出できるのだろうか?
このような理由で、個人的には、PS3のゲームビジネスとしての成功には若干疑問を感じている。とは言え、ゲーム機の市場シェア7割を持つSONYの優位が大きく揺るぐことはないかと。リアリティや画質、スペックを求めるハイエンドでコアなゲームユーザーはPS3、もっと気軽に楽しくゲームで遊びたいユーザーにはWii、という感じで住み分けがされる可能性が高いのではないかと思う。
では、ゲーム機、ではなく、「ポストPC」時代のコンピューターとしてどうか、というと、対値段では素晴らしい性能・優れたデザインだとiSuppliは分析している。チャレンジは、その能力をどのように使うかの方だろう。
また、PS3の製品アーキテクチャーとサプライヤーとの関係も興味深い。私は個々の部品の機能や役割にあまり詳しくないので、単純に値段での分析になるが、$800を超えるコストの中で、NvidiaとIBMのチップが1/4以上を占めている。SONY製の部品が占める割合は全体の2割以下だった。但し、(SONY)と書いてある部品をOEM?と推定すると、SONYシェアが5割以上に高まる。
このような構造が、果たして、次世代ゲーム機/コンピューターに対する戦略としてどうかは、また別の機会にもう少し詳しく考えてみたい。
こんにちは。いつも高いレベルの考察で、勉強させてもらっています。
ポストPCをどうとらえるか
(1)PC全般を置き換えるもの
(2)家庭にあるPCを置き換えるもの(仕事では従来のPC)
おそらく(2)が正解で、課題はユーザインタフェイスだと思います。そういう意味では画質も一定水準まで上げる必要があります。
今回のゲーム機は「みんなで楽しむ」ということで方向性は同じようで、
(a)時間+空間を共有するスタイル(wiiのゲーム)
(b)時間のみを共有するスタイル(ネットゲーム)
という2つのスタイルがぶつかり合っているように思います。
ポストPCという観点で考えると、課題であるユーザインタフェイスにより鋭く切り込んでいるのは、空間による制約の強いWiiの方です。
Posted by: tamano | December 16, 2006 at 10:28 AM
tamanoさん
私が自分の勉強のために好き勝手にあれこれ考えたり書いたりしているだけなので、何かのお役に立っているようでしたら嬉しいです。
「ポストPC」という言葉の定義について、ご提起いただきありがとうございます。
私自身この言葉をあんまり厳密に考えずに使っていたので、頭の整理になりました。
イメージしていたのは、tamanoさんがおっしゃるように(2)でした。
「PCを置き換えるもの」というよりは、「人々の暮らしや仕事の中で使われるコンピューターというのは、これからどういう形であるべきか」という風に考えていました。UIも確かに解決すべき課題ですね。
私個人はそれほどゲームをやらないですが、確かに、コアなユーザーは自分で相当お金も掛けて、ハードも自作してネットゲームにはまっているので、PS3ぐらいのスペックでは逆にもう食指を動かさない、なんて話もET研では出ました。
SONYは、ゲーム以外の家電やAV機器ビジネスのしがらみもあるので、意思決定が大変そうだなあ、と感じました。
#wiiで遊んでみた感想としては「たのしー!」(笑)でした。
Posted by: Tomomi | December 18, 2006 at 12:43 AM