Previous month:
November 2006
Next month:
February 2007

ThinkFreeはGoogleの買収を断る

昨日、「GoogleがオフィスアプリケーションソフトのThinkFreeを買収する方向に動いているらしい」と書いたのですが、そのニュースには続きがあり、ThinkFreeの親会社である韓国のHaansoftは、ThinkFreeのGoogleへの売却を断ったそうです。(徳力さんブログにて知った)ちゃんと最新情報チェックしないとダメだなぁ~、反省。。。。

英語の記事を幾つか見ていて、おそらく源はここだろうと思われる(私が見た範囲では)一番詳しい記事にリンクしておきます。

Google Looks for Korean M&A Target; Korea Times, 12/10/2006

"We hope to make a strategic alliance with Google, but the hitch is that the company does not like alliances. I heard it prefers to scoop up a company rather than cooperate with it,’’ Baek said. (中略) The ThinkFree software has caught the attention of global players because it is available in up to 15 languages and uses only 20 megabytes of memory.

#Googleに対して挑戦的に見えるITProの記事とは、随分口調が違うのですが、(気が弱いので、ホントにあんなこと言ったのぉ?と、)原文を見たところ、「Googleが立ち上げたばかりのワープロやスプレッドシートには基本的な機能しかない」という指摘は、記事を書いた記者さんの意見で、HaansoftのCEO・Baek氏のコメントではないようにも読めます。Korea Timesを見ると、「Googleとはアライアンスが組めれば良いなと思うが、彼らは他社と協力するより、会社をごそっと買い上げるほうが好きみたいだと聞いているから・・・」という感じ。

#まぁ、いずれにせよ、「アライアンスより、相手を買うほうが好きみたい」というコメントも、ちょっと毒が入っていますね。


GoogleのM&Aにみるハイテク業界の技術マーケティング戦略って

徳力さんのブログで、私も以前紹介したことがある韓国系ベンチャーのThinkFreeが、Googleに買収されるかも?という噂があることを知った。 → でも、ThinkFree側は断ったそうです。(12月22日確認)

それを知って、真っ先に浮かんだ感想は、「へぇ、GoogleもYahoo!と変わらなくなって来たなぁ」。

少し前までは、Flickr, Facebook, Overture, Del.icio.usと、綺羅星のごとくその名が響き渡る人気サービスを次々と買収するのはYahoo!の専売特許のように語られていたこともあった。(Yahoo's Strategy: Growth by Acquisition; BusinessWeek, 10/6/2006)

Since Yahoo bought Flickr in March, 2005, it has become one of the top ten networking sites, according to June figures from comScore Media Metrix. Del.icio.us has grown from roughly 300,000 subscribers, when Yahoo bought it in December, 2005, to 1 million this September

また、買収によるYahoo!の成長の影では、自社製サービスとのバッティングや、プロダクトポートフォリオの混乱が起きており、フォーカスの効いたビジョンや戦略、オーナーシップが不明確になっていることに対する警鐘が、社内からあげられたりしている。(Yahoo Memo: The 'Peanut Butter Manifesto' - WSJ.com; 11/18/2006)

で、Googleの動きはどうか、というと、

2003年にBloggersの親会社であるPyra Labsを、2004年7月にはPicasaを、2004年10月にKeyhole(現在のGoogle Earth)を、2005年3月にはUrchin(現在のGoogle Analytics)を、2005年10月にはAOL株の5%を、2006年1月にはラジオ放送用ソフトウェアのdMarc Broadcasting Servicesを、そして今年10月にはYouTube。11月にJotspot。もう最近は多すぎていちいち覚えきれないぐらいだけど、特に、Google VideoがあってもYouTube, Google SpreadsheetとWritelyがあってもThinkFree、というあたりにシタタカサを感じる。(あえて競合させて実験してるのかな?どっちかが転んでも大丈夫なようにリスク分散?とか。。)

参考URL:Google Looks To Boost Ads With YouTube; WSJ, 10/10/2006
Google Acquires Urchin; John Battelle's Searchblog, 3/28/2005
Google Buys JotSpot to Expand Online Document-Sharing Service; WSJ, 11/1/2006

これをどのように評価すべきなのだろうか?

Google論における日本の第一人者、梅田望夫さんは、「『こんなものゼロから作れば俺たちの方がいいものが作れる』という『天才的技術者の発想』より遥かに上位のところで、Googleがきちんと『正しい経営判断』を下す会社になった」と評価されている。

確かにこれは一理あるかも、と思う。「俺たちの方が~」というのは、優秀な技術者を社内に大量に抱えている技術Orientedな会社にありがちな風景なので。しかし、その反面、企業の内側から、そこのコアな分野に関するイノベーションが生まれなくなってくるのは、衰退の兆しだという説もある。

変化の速いハイテク業界でも、ただ闇雲に突っ走っているわけでなく、内部には技術マーケティング・ロードマップに基づく羅針盤がある、という。その中の選択肢としては、必要とあらば、他社の技術を買うという行動も含まれている。技術開発の戦略、その中でも、どういう場合・どういうモノを買収するのか?というM&A戦略はどうあるべきなんだろうか? ということを最近よく考える。

  • 顧客が欲しがっているものを素早く買い取り、ソリューションとして仕立てて提供するうまさに定評があるCisco
  • まさに「俺たちの方がいいものが作れる」で、後発企業をブルドーザーのごとく薙ぎ倒してきたMicrosoft
  • 歴史に名を残す重要な発明を数多く生み出しながら(レーザープリンター、イーサネット、GUI、マウス、オブジェクト指向プログラミング、ユビキタスコンピューティング 等)、どれ一つ社内では事業として成功させられなかったXerox
  • PCアーキテクチャーにおける勝負どころを見誤り、思いがけずに"Wintel"興隆、関連産業の発展の基を開いてしまったIBM

でもまぁ、Googleのコアはやっぱり検索アルゴリズムだろうから、そこ以外のM&Aは普通に経営判断として合理的だろうとも思うし、そもそもシリコンバレーの「世間の狭さ」を考えると、実は両社の社員の中にはフツーに友達同士だったり、「あ~YouTubeね。あそこのXXはいい奴だよ。昔XXで一緒に働いてたんだけど」みたいな感じなんだろうなぁ、と思ったりします。


PS3はポストPC時代を切り拓けるか

そろそろ、コンピューターやソフトウェアは、アーキテクチャーや生態系が「ガラガラポン」(言い換えると、破壊的イノベーション)する時期が近いのではないか?と、1年以上ボンヤリと考えていた。私がそう感じた背景には、

  • パッケージソフトウェア、とりわけ業務アプリケーションの分野では、しばらく、目玉となりうるようなパッとした大規模なモノ(ERP, SCM, CRMみたいな)が出てこなくなってきており、ベンダーの合従連衡もだんだん落ち着いてきたこと → 課題意識を整理するパッケージソフトウェア業界(主にOracle)
  • 世界最大のパッケージソフトウェアベンダーであるMicrosoftが、新しいPC OSを出すのに、5年間もの期間を要したこと。ドッグイヤーの業界での5年間というのは、おそらく、途中で何度もゴールややりたいことが変わっただろうし、方針が変わる中で、いかにこれまでの資産との互換性を維持し、肥大し続ける開発の整合性を取り続けるか、プロジェクトマネジメントにおけるチャレンジだっただろうと思う。(何年か後でも構わないが、Windows Vistaは、ソフトウェア開発・プロジェクトマネジメントにおける重要なケーススタディになるのではないかと個人的には感じている) → Platform Leadershipコンピューター業界に訪れた転換点とは史上最大のプロジェクト
  • PC以外のプラットフォームにおいても、OS開発の規模・複雑性の増加に伴って、複数社による相乗り開発(携帯電話OSが該当するか)、オープンソースソフトウェアの存在感の高まり等、バリューチェーン上、顧客が価値を見出す部分がOSから離れ始めている気配があること→ Big Blueはどこへ行くのか

などがある。

モジュール型アーキテクチャーの代表であるPCが再び転換点を迎えた時、ビジネス構造を変える「ティッピング・ポイント」はどこなのか、ずーーーーっと気になっている。

要素技術の変化や、個々のモジュールを開発している企業の動きをボンヤリ見ていると、何となく、次はチップ周辺かなぁ?と(根拠はないけど)感じていた。グラフィックス分野ではNvidiaと並ぶ二大勢力だったATIがAMDに買収されたこと。そして、昨今盛り上がっている次世代ゲーム機でしのぎを削る3社 - SONY、Microsoft、任天堂 のコンソールにIBMのマイクロプロセッサが採用されていることMicrosoftは、ポストXbox360に向けて、実は自社内でチップの設計を進めているらしいということ。などなど。

ゲーム機は、携帯電話と並んで、「ポストPC」のコンピューター有力候補かもなぁ、と思っている。

で、PS3である。下記はiSuppliのコスト分析を加工したデータになる。

ところで、個人的な主観だが、PS3はゲーム機としては高すぎると思う。画質が良いのはよく分かった。しかし、その差というのは、一般消費者にとって、従来機種よりも4万円も多く払うだけの有意な差なのか?既に、技術革新が顧客のニーズを追い越してしまったような気もする。また、Nvidiaのグラフィックチップの次に値段の高い部品である、自社製のBlu-Ray ドライブがPS3のウリなのだろうが、そんな大容量のゲームソフトの開発は、ボコボコ簡単にできるものじゃないのでは?

ゲーム機の市場シェアはソフトの魅力によって決まる。そう言われて久しいが、既にPS2の時代ですら、ゲームソフトの開発には、1本当たり2年の期間と二桁億円のコストが掛かっていたという。それが更に長期化・高価格化した時に、これまでのような品揃えが実現されるのか?されるとして、それが一体いつなのか?また、PS2の時代で、採算ラインは十万本台とされていたが、それを上回るだけの市場をPS3は、創出できるのだろうか?

このような理由で、個人的には、PS3のゲームビジネスとしての成功には若干疑問を感じている。とは言え、ゲーム機の市場シェア7割を持つSONYの優位が大きく揺るぐことはないかと。リアリティや画質、スペックを求めるハイエンドでコアなゲームユーザーはPS3、もっと気軽に楽しくゲームで遊びたいユーザーにはWii、という感じで住み分けがされる可能性が高いのではないかと思う。

では、ゲーム機、ではなく、「ポストPC」時代のコンピューターとしてどうか、というと、対値段では素晴らしい性能・優れたデザインだとiSuppliは分析している。チャレンジは、その能力をどのように使うかの方だろう。

また、PS3の製品アーキテクチャーとサプライヤーとの関係も興味深い。私は個々の部品の機能や役割にあまり詳しくないので、単純に値段での分析になるが、$800を超えるコストの中で、NvidiaとIBMのチップが1/4以上を占めている。SONY製の部品が占める割合は全体の2割以下だった。但し、(SONY)と書いてある部品をOEM?と推定すると、SONYシェアが5割以上に高まる。

このような構造が、果たして、次世代ゲーム機/コンピューターに対する戦略としてどうかは、また別の機会にもう少し詳しく考えてみたい。


史上最大のプロジェクト

プロジェクトの難しさは、規模に比例して大きくなるのではなく、指数関数的に大きくなるというのは、プロジェクトに関する常識と言って良いと思う。

では、史上最大のプロジェクトは何か?というと、アメリカでは、原爆の開発だったそうだ。そのコストは$20 billion(約2兆円)だといわれているらしい。

そして、それに匹敵する規模だったのが、1万人のエンジニアを5年間投入した、Windows Vistaだそうだ。

「じゃあ、ピラミッドや万里の長城よりも難しかったの?」と内心突っ込んだのだが、Wikipediaによると、ピラミッドの総工費は1,250億円、工期5年、最盛期の従業者人数3,500人という試算を大林組が出したことがあるそうで、実はWindows Vistaよりも規模としては小さい可能性が分かった。また、万里の長城は2,000年以上掛けて建造されたとのことだが、人数は不明。

今やソフトウェア開発プロジェクトは、歴史に名を残すほどの複雑性・困難さを伴うようになりつつある、ということなのだろうか?それに見合うだけのプロジェクトマネジメント技術・方法論は、確立されてきているのだろうか?

Takahashi: Why Vista may be last of its kind
2006/11/30, Mercury News

If we assume Microsoft's costs per employee are about $200,000 a year, then the estimated payroll costs alone for Vista hover around $10 billion. That has to be close to the costs of some of the biggest engineering projects ever undertaken, such as the Manhattan Project that created the atomic bomb during the Second World War. (Wikipedia says the bomb cost $20 billion in 2004 dollars.)