wiiはお茶の間エンターテインメントを変えるか(1)
史上最大のプロジェクト

wiiはお茶の間エンターテインメントを変えるか(2)

前回に引き続き、任天堂のwiiの競争戦略について考察する。前述した通り、ゲーム市場全体が飽和気味という環境下なので、

  1. 競合にどう勝つのか?
  2. 従来とは違う市場セグメントをどう切り拓くのか?

という二つの観点が必要だろう。

前回も書いたように、wiiプレビューや岩田社長プレゼン等を見て、「これを単純にゲーム機と考えてよいのだろうか?」と感じたことから、まずは「2. 従来と違う市場セグメントの開拓」という観点から。大きく、次世代の「お茶の間エンターテインメント」市場を巡る動きについて私見を述べたい。

任天堂のwiiに限らず、確かに少し昔から、近未来のライフスタイル「コンテンツを様々なデバイスで利用する」という姿は色々な会社・業界によって色々な言葉で表現されてきた。マンガで表現するとこんな感じ。

真ん中の赤い箱は、デジタル・ハブとかメディア・センターとか様々に呼ばれるが、今のところPCが一番近いポジションに付けているように思う。また、「コンテンツの販売・流通(右側の雲=インターネットの向こう側)」「コンテンツを表示・利用するデバイス」「コンテンツ管理・制御」は、同じプレイヤーかもしれないし別々かもしれない。私個人は、このライフスタイルが実現された世界で覇権を握ろうとしている有力企業は下記ではないかと思っている。

  • SONY
  • Microsoft
  • Apple

また、この競争で最も統合的なビジネスモデルを構築しつつあるのは、Appleだと思う。

インターネット上のiTunes Music Storeで音楽コンテンツを販売し、それ以外の媒体(CDとか)も含めたコンテンツ管理のためのソフトウェアiTunesと、コンテンツを再生するためのパーソナルデバイスiPodを提供しており、音楽コンテンツに関しては、オンライン/オフライン含めた販売額で全米5位に付けている。しかも、これまでコンテンツ自体は、Appleの設定した土俵に乗っかってくれる企業に依存していたが、ジョブズがディズニーの経営に関わっていることから、動画コンテンツそのものに関しても優位に立てる可能性がある。たぶん将来的には、赤い箱の場所にマッキントッシュを置くのがAppleの目標であろう。これは、以前WWDCへ行った時から感じていたことだが、その後も着々と布石を打っているようだ。(「今日の本当の目玉は・・・」以降を参照)

コンテンツを買い、それを利用・管理するという、顧客の一連の用事に対して、インターネットも含めたシームレスなエクスペリエンスとブランドを構築していることがAppleの強みである。だから、必要なソフトウェアとあらば躊躇なく他社を買収し、iPodもマッキントッシュも、主な部品は他社から買ってくる。

他の2社はどうかと言えば、SONYは「イノベーションのジレンマ」に陥り、ポータブルHDDプレイヤー市場には完全に出遅れたし、PS2があまりに成功したからかPS3投入のタイミングは遅すぎたのではないか?とも言われる。ただ、AV製品やPC、携帯電話までメジャーなデバイスは全て持っていて、ゲーム・映画等のコンテンツも有する点では非常に重要なポジションにいる。Microsoftは、Xboxで次世代ゲーム機をいち早く市場に投入し、欧米では完全に「小型PC」化しつつある携帯電話市場でも着実にポジションを固め、最近Zuneを出してきた。かつては「世界中の全てのPCにWindowsを搭載する」ことが野望だったろうが、今では「世界中の全ての"コンピューター"にMicrosoftの技術を搭載する」と考えているのでは?と感じるほどである。Microsoftは、「PC単体でできること」で需要を喚起することがいかに大変になってきたかが身に沁みている分、必死で攻めてくるだろう。

この他にも、アメリカだけを見ても、コンテンツサイドから触手を伸ばそうとしているのはComcast等のケーブルTV、それから通信キャリア等がある。

●では、任天堂はどうか?

前述のように、任天堂の売上は、台数/本数ベースで8割弱が日本以外の市場である。従って、否応無しにグローバルでの競争に巻き込まれるだろう。しかし、これら世界のビッグプレイヤーがひしめく市場に、任天堂はどのように勝負を挑むつもりなのだろうか。

個人的な主観としては、おそらく、上記のようなお茶の間エンターテインメントの総合企業と真っ向から戦わず、「あくまで、消費者にとっての"一つのチャンネル"を提供する」ことが念頭にあるのではないかと思う。アメリカのケーブルTVだと月$50ぐらい払えば50チャンネル以上見れて(確か)、中には、日本語専門チャンネルとかスペイン語チャンネル、もっとマニアックに、一日中スポーツとかSci-Fi「だけ」を流しているチャンネルまである。しかも、一般的にはそれがアメリカのケーブルTVの最低ランクなのである。(実はもっと低ランクのものもあるが、儲からないらしく、あまり公にされていない)

「だったら、ゲームというチャンネルがもう一つあっても構わないでしょ?」というのが任天堂の提案なのであろう。

また、50個もチャンネルがあっても、多くの消費者は全部は見ないだろう(実際、私は殆ど見なかった)。自分の好きなチャンネルの番号を何個か覚えるか、好みの番組が写るまでリモコンでサーチし続けるというのが、TVを見る際の消費者の一般的な行動パターンだとすれば、「お好みのチャンネルをwiiに登録しておいたらどうですか?」という使い方はあるかもしれない。

それでも私が任天堂はゲームチャンネルに特化するのではと思った理由は、

  • ゲームは元々ソフトとハードの統合度の高い製品アーキテクチャー(ハードが替わると互換が効かない)であり、汎化設計されていないため、ゲーム以外のコンテンツを載せた場合の品質・性能は最適化されていないのではないか。
  • wiiのCMやWebサイトを見ても、リモコンを動かしてゲームを行なうという新しいUI等に関するアピールが殆どで、ゲーム以外では具体的にどのようにコンテンツを利用できるのか、提供できるのか、wiiを使うとどう嬉しいのかが分からない。メッセージが感じられない。
  • ゲームとその他のエンターテインメントでは、ビジネスのバリューチェーンや必要な能力が異なるが、今の任天堂に、ゲーム以外の領域にまで進出するための能力/意欲があるかどうかが読み取れない。

よって、ゲーム以外のビジネスについては、任天堂はユーザーにとってのインターフェースとデバイスを提供し、他社との協業によって実現する可能性の方が高いのではと思う。

どちらかというと、私の目を惹いたのは、ゲームソフトの開発コスト・期間を低減させるという取組みだった。ゲームソフトの開発には下記のようなリスクがあるが、それを低減させられるのではないかと感じたので。

  • ゲームソフト市場は、自由度の高い環境の中で数多くの企業が競争を繰り広げ、消費者の微妙で主観的な評価にさらされる製品を次々に送り出すことによって成り立っている市場である。結果として、製品のサイクルは短く、製品の価格弾力性は低く、製品の売行きに関する不確実性は高い
  • 製品企画の提案からマスターアップに至るまでの時間は、最低でも1年はかかり、平均的には1.5~2年
  • 開発に携わる人員数は、数十人が平均的、プロジェクトによっては100人を超える
  • 開発される製品の大規模化、複雑化により、費用は少なくとも数千万円、大規模プロジェクトでは数億円(以上は、藤本隆宏・安本雅典「成功する製品開発-産業間比較の視点」の生稲史彦「家庭用ゲームソフトの製品開発」より)

開発ツールを安価で提供する、他の次世代ゲーム機に比べて短い期間で開発が可能だというのは、かつてMicrosoftがPC市場で自社プラットフォーム を普及するために、魅力あるソフト開発に腐心し、サードパーティに対して開発ツール(Visual Studio)を提供したのと構図としては非常に似ている。

従って、任天堂の強みは、ハード(部品レベルの開発から他社と密接に協業している様子はインタビューからも伺える)からソフトまで含めたゲームという製品アーキテクチャーと、小売も含めたビジネスバリューチェーン全体のアーキテクトである点なのではないかと思う。

余談だが、ここまで開発が大規模化していて、しかもきっとこの業界もロングテールだろうし、ぶっちゃけゲーム開発ってベンチャーを興すのと変わらないリスクではないか?と思った。ゲームソフトベンダーの資金調達って一体どうなっているのだろう。激しく気になる。

但し、これはあくまでゲーム業界のアウトサイダーの私が公開情報から読み取った範囲なので、このエントリにもし業界の方からのツッコミが入ればとても嬉しい。

(データは任天堂のアニュアルレポートより。単位は百万ユニット)

●ゲームは実際のユーザーと購買者が異なっており、購買者をいかに説得するかがカギ

では、再び視点をゲームに戻し、ゲーム市場で任天堂(あるいはその競合)にとってのチャレンジが何かを考察して行きたい。

前述の通り、日本で最もゲームをよくするのは10代のようだ。とすると、ゲームユーザーは、ゲーム機本体・ゲームソフトを親もしくは祖父母に買ってもらっている可能性が高いのではないか。CESAの一般生活者調査報告書によると、「誰が購入し、誰が利用することが多いか」という質問に対する単数回答では、「家族に買ってもらい、自分も家族も利用する」(37.2%)、「自分で購入し、自分だけが利用する」(24.3%)、「自分で購入し、自分も家族も利用する」(19.8%)となっており、仮説としては悪くなさそうだ。

とすると、ゲームメーカーは、ユーザー本人に「欲しい」と思わせると同時に、実際の購買者である親もしくは祖父母に、「自分や兄弟姉妹もやるだろうから、まぁいいか」と思わせなければいけないということになる。

ET研でも、「コレを買ったら孫が遊びに来る」と言われてついゲームを購入してしまう祖父母、という構図が指摘されていたが、家族みんなでゲームに興じる 姿を強調するwiiのCMは、まさに、難しい年頃の子供や孫ともっとコミュニケーションしたい親心・祖父母心をくすぐるうまいマーケティングである。

●テレビ周りのスペース(空間)を巡る戦い

可処分所得が高く、独身1人暮らし・もしくは実家だが自分の部屋にテレビがある状態のコアなゲーマーは、PSとwiiを両方買ったりするだろうが、家族と一緒に暮らしている場合これが問題になるのではないか。我が家の場合、テレビを取り巻くのは、ビデオ、PS2、英語版DVDプレイヤー、CD/MDプレイヤー、アンプ、スピーカー3つ、ラックから溢れているDVDとCD達 である。夫が何か買おうとすると、「これ以上モノをどうやって置くの!」と私が止めるという構図になる。なので、DVDソフトの箱3つ分で収まるwiiの筐体サイズは、こういうお茶の間の事情に対する配慮もなされていると感じた。ちなみに我が家の場合、PS2を買った時の夫の論理は、「DVDも見れる」であった。当時うちにはDVDプレイヤーがなかったので。実際、今でもDVDプレイヤーとして使うことの方が多い。

なので、wiiを買うユーザーでも、PS2はDVDプレイヤーだと思うことにする人はDVD無し版、「いやもうこれ以上テレビ周りにモノを増やすのはやめてくれ」という人はPS2やDVDプレイヤーをしまいこんでDVD付き版のwiiを買うのだろう。直感的には前者の方が多い気がするので、wiiの初期バージョンがDVD再生機能を持たないのは非常にリーズナブルだと思う。場所が狭いのも辛いが、今ある機器を捨てるのは心理的に抵抗があるので。

というわけで、ひとまず、任天堂のwiiはゲームとしてはなかなかイケてるんじゃないか、というのが私の結論なのですが、XboxやPS2/PS3との比較はそのうち(気が向いたら・・・)やるかもしれません。

PS3は、早速徹底的にバラされているようで、iSuppliという会社が部品レベルでのコスト構造分析を発表していて面白いと思いました。現時点では一台当たり$240~$300前後の赤字と試算されています。ただ、Xboxも当初は赤字だったものの、1年も経てば製造コストはドカンと下がって黒字化しているので、ゲーム機のライフサイクルを考えると殊更おかしくはないかもしれません。ちなみに、PS3の中で最も単品で高い部品は、Nvidiaのプロセッサ($129)。次いで自社のBlue-Ray Optical Drive ($125), IBMのプロセッサ($89)の順に続いています。

Comments

shintaro

ご無沙汰してます。

僕の知っているゲーム系ベンチャーは大抵の場合、任天堂やSCEなどのハードメーカーか大手ソフトベンダーにお金を出してもらい、レベニューシェアをする形になっているように思います。発売がSCEになっていても、開発元が見慣れない名前ということは多かったりします。

そもそもゲーム系ベンチャーの社長自体が、元大手ソフトベンダーでゲームプロデューサーでした、という人も多いですし、MBOではないですがスピンアウトしてできている会社も多いようです。

したがって、あまり資金調達とかもせずにやっている会社が多く、今後ネットとゲームの融合が進む際にうまくネットに進出した企業は、台風の目になってくるのではないかなと思っています。

Tomomi

shintaroさん、こんばんは

そうなんだ、ゲーム業界でもベンチャーは大手からのスピンアウトやMBOが多いんですね!やはり、競争力のある業界はそういう構図なのか~。。。とても勉強になります、ありがとうございます!

実は、「ゲーム開発プロジェクトはベンチャー起業と同じ」なのであれば、ゲーム業界にもファンドとかインキュベーションといった機能が求められているのでは???と密かに思っていたのですが、現状はあんまりそういうニーズはないのか~。。というのはちょっと残念ですが。

インターネットサービスの日本独自の進化の方向性って何なのか、漠然と考えていたのですが、ゲームも今後は気を付けてウォッチしてみます。また色々教えてくださいね

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