Microsoft1社支配時代のパラダイムを変えようとするアジアからの動き
日本経済 競争力の構想―スピード時代に挑むモジュール化戦略

ソフトウェア業界の現実(の一側面)

前回、何のコメントもせずにイキナリ紹介したIDCのデータ(グローバルIT市場では、サービスが4割、パッケージソフトウェアが2割)だが、私はこれを見た時、パッケージソフトウェアの市場規模ってこんなに大きいのか!と意外に感じた。

これまでハッキリ書いたことがなかったが、ソフトウェア業界について私は幾つか仮説を持っている。

  1. 実はパッケージソフトウェアによってカバーされている領域はまだまだ限定的で、企業が使っているソフトウェアの多くはカスタムメイド(システムインテグレーションサービス)に依存しているのではないか。
  2. そして、パッケージソフトウェアの市場というのは、「以前はカスタムメイドだったものの標準化・テンプレート化」の繰り返しによって成長してきたのではないか。
  3. 今後も、パッケージソフトウェアは増加するだろうが、カスタムメイドの領域はなくならない。なぜならば、パッケージソフトウェアを使うということは、(厳密には違うのだが、極端に言い切ってしまえば)「他社と同じプロセス」ということだから。企業には必ず固有・独自のプロセスがあり、それが差別化・競争力の源泉のはず。
  4. 但し、逆に言えば、「今は単に標準化できるかどうかが分かっていないが故にみんなバラバラに作っているが、実は標準化できる領域」「企業固有のプロセスで、自分のコアコンピタンスだ、と思っている領域も、実はそんなに特別ではなくて標準化しても問題ない領域」というのも、まだまだ残っているのではないか。

ソフトウェアでベンチャー企業というと、みんな昨今はGoogleのような、広く世間一般の人に使ってもらえるものを想像するが、マイケル・クスマノ「ソフトウエア企業の競争戦略」では、ベンチャー企業へのアドバイスとして、企業向け(特定業界・特定業務の)パッケージソフトウェアを、サービスと組み合わせて売って行くのが現実解だろう、と結論付けている。(※この本の私のレビューはこちら

Software Magazineの"Software 500"(クスマノも本に参考資料として載せていた)を眺めると、幾つか興味深いことに気づいた。(そのうち気が向けばグラフを載せますが、気になる方はソースを見てみてください。会員登録すれば無料で見れます。表形式なので英語もそんなにないし)

  • ソフトウェア業界も、おそらくものすごいロングテールである。企業全体の売上高で見るとIBMとhpだけが突出して大きく、3位のMicrosoftの2倍以上になる。また、ソフトウェア+サービスの売上高に限ると、2位のMicrosoftは1位のIBM(注:IBMはグローバルサービスの売上高が大きいため、純粋にパッケージソフトだけではない)の半分の規模で、3位のOracle及び僅差で4位のSAPは、2位のMicrosoftの1/3。それから、ソフトウェア+サービスの売上高が$10 billionを超えているのは上位7社のみ。その後は、32位で$1 billion台($2 billion以下)まで下がり、60位以下は$1 billion未満。91位以下は$500 million未満(※1)
  • パッケージソフトウェア主体の会社よりも、コンサルティング・システムインテグレーション主体の会社のほうが多そうだ。上位50社でパッケージソフトウェアを売っている会社は16社程度(※2)だった。Microsoft(2位、$33b)、Oracle(7位、$10b)、SAP(9位、 $9.3b)、Sungard Data Systems, Inc(24位、$3.5b)、Avaya(25位、$3.5b)、Google(29位、$3.2b)Symantec(32位、$1.9b)、Amdoc(33位、$1.8b)、Intuit(35位, $1.7b)、Adobe(37位, $1.7b)、SAS(39位, $1.5b)、Siebel(42位, $1.3b)、Compuware(43位、$1.3b)、The Sage Group PLC(46位, $1.2b)、Acxiom(48位, $1.2b)、Novel(50位, $1.2b)
  • パッケージソフトウェアの大半は、大企業がターゲット顧客である。逆に、個人向け・中小企業向けがある程度の割合に達していると思われるのは、Microsoft、Google、Symantec、Intuit、Adobeぐらいだろうか。それ以外の会社は、最近は中小企業向けを謳っているところもあるが、実体はどうかは分からない。

これを見ると、クスマノが「コンシューマー向けの事業は難しい」というのも激しく肯ける。だからこそ、成功した時の見返りが大きいのだが。(※3)

そんなわけで、仮説1については、このランキングを見た限りでは、大体合っているように思う。仮説2については、以前、パッケージソフトウェア業界(主にOracle)で多少触れたが、特に企業向けの業務アプリケーションの分野では、あるパッケージベンダで働いている人がスピンアウトするパターンが多いことから、起業のパターンとして、「従来製品では対応できておらず、かつ多数の顧客にある程度共通している課題を見つけ、そこをカバーする新しい製品を売り出す」という構図が想像できるので、これもそんなに大きくずれてはいないように(勝手に)思っている。

残るは仮説3だが、これは、正直、2年以上前から気になってるけどまだ全然手が付いていないなぁ。。。。と思うので、追求の仕方はちょっと考えよう。

繰り返しになるが、全てをパッケージ化するのは無理だろうが、パッケージ化できる領域はまだたくさん残されているし、カスタムメイドのソフトウェアもパッケージも、今後もっと増えて行くだろう、と私は思っている。そもそも、世界には、まだコンピューター化されていない分野・コンピューターを使っていない人のほうが多いのだから。(これはクスマノの結論でもあるが。)


(※1)Software 500というランキング自体の限界だが、アメリカ以外をベースとしている会社に関しては相当漏れ・抜けがあると思われる。おそらくアメリカの公開企業を対象に調べており、当然ソースは英語で書かれているものだけと想像できるので、日本でしか上場していない会社や、日本の非公開企業などはこのリストに含まれていないと思われる。いわんやアジア諸国をや。しかも、500位近くまで行くと売上高は$0.5 million程度なのである。$1 millionはザックリ1億円、ってことは、ソフトウェアで億稼げるのは世界でたった500社未満ということになってしまうが、幾らなんでもそれは少なすぎる。なので、リストの上位の方はそれなりに信頼性はあると思うが、きちんとこの業界を検証するにはもう少し網羅的なデータが必要だろう。しかし、いずれにせよ、ソフトウェア業界がいかに上位寡占になりがちか、ということや、IPOにこぎつけるのがいかに難しいかということを示す一つの材料としては十分面白いと思う。

(※2)私個人が「あそこはパッケージソフトウェアの会社」と認識しているもの、プラス、Software 500のSoftware Business Sectorの欄を見て、パッケージソフトウェアっぽかったらWebサイトを確認し、ぱっと見でパッケージソフトウェア主体っぽかったら良しと判断した。というわけで、あくまで個人的な主観なので、漏れ・抜け・認識違いはあるかもしれません。Googleについては、「標準化・テンプレート化されたソフトウェアをサービスとして提供している」と思うので「パッケージの会社」に含めるか悩んだのですが、ここでのポイントは、「カスタムメイドで顧客のニーズに応じて一から構築する」のか「既に出来合いのモノを提供する」のかなので、入れました。

(※3)私の父親は、パソコンやインターネットとは全く無縁の人間で、携帯メールすら使わないし、「ブログみたいなものを書いて一体何の役に立つのか、俺には理解できない。」と言うが、「そりゃあ、Microsoftみたいに誰でも使えるようなものを作れば、一発当てれば大きいかもしれない。でも、成功する会社はものすごく少ないだろう。その点、企業向けにソフトウェアを作る事業は、保守運用等もあって確実に長期的にお金が落ちてくるから、大当たりはしないかもしれないが手堅い」と昔から言っている。そう思うと、具体的に何社が成功できるのか・成功しそうか(成功確率)、幾らぐらい儲かるものなのか、といったディティールを除けば、商売の基本は普遍のルールなのかもしれない。ちなみに私の父は元零細企業の社長である。だからと言って、Googleを目指すことが悪いとは思わない。挑戦しなければ可能性はゼロだが、ベンチャーが成功する可能性はゼロじゃないんだから。

Comments

も

お久しぶりです。三次元データを扱う企業人として考えた場合の芦野さんの仮説をみていくと、次のようになるかと思います。

> 実はパッケージソフトウェアによってカバーされている領域はまだまだ限定的で、企業が使っているソフトウェアの 多くはカスタムメイド(システムインテグレーションサービス)に依存しているのではないか。

そうですね。うちでもそうですが、買ってきたソフトをそのまま使うというお客さんは少なくて、自分たちの都合に合わせてシステム内に組み込むという使い方をしているお客さんが圧倒的です。

> そして、パッケージソフトウェアの市場というのは、「以前はカスタムメイドだったものの標準化・テンプレート化」の繰り返しによって成長してきたのではないか。

三次元 CAD の大手である Autodesk はまさにその手で 80 年代から 90 年代に急成長を遂げました。元従業員の話によると、成長の大きな要因は、API を公開して、お客さんに自由にアプリをカスタマイズできるようにしたことだそうです。すなわち、お客さんがカスタムメイドしたモジュールやツールが「これはほかでも使える」と判断されて、Autodesk がそれらを組み込んでいって、その結果、自分たちの CAD が使いやすくなって、売れていくという循環がみられたようです。

> 今後も、パッケージソフトウェアは増加するだろうが、カスタムメイドの領域はなくならない。なぜならば、パッケージソフトウェアを使うということは、(厳密には違うのだが、極端に言い切ってしまえば)「他社と同じプロセス」ということだから。企業には必ず固有・独自のプロセスがあり、それが差別化・競争力の源泉のはず。

これも同意です。ある小さな企業が、たとえば QuickBooks 使って会計して、salesforce.com (これ、パッケージソフトウェアと呼べるのかわからないですが) でお客さんの管理をしてたとしても、じゃあその間のデータの受け渡しをどうやるかというと、CSV をつかうか、XLS をつかうか、といったところで使うフォーマットの曖昧性が発生し、それが異なるプロセスを生み出します。こんなところでさえ、パラメータの微妙な差異が出るのですから、これが売り上げ規模ですとか、顧客の数ですとか、それらのデータを扱い管理する人々の数ですとか、そんなパラメータをあわせていくと、結局「固有・独自のプロセス」が生まれざるを得ないのではないでしょうか。

三次元データの扱いをみてもまったく異なっていて、A 社は「一つのファイルに三次元、二次元、テキストのデータがすべてまとまっていてほしい!」というのに対して、B 社は「三次元データをウェブで配信したい。だから HTML で埋め込めればよい。二次元データやテキストデータは複数ファイルできてもかまわない。リンクしさえすればよいのだから。」というように言ってきたりして、それに応じたソリューションの提案が求められています。そんなところで、やはりパッケージソフトのカスタマイズという作業は必須だと思います。

> 但し、逆に言えば、「今は単に標準化できるかどうかが分かっていないが故にみんなバラバラに作っているが、実は標準化できる領域」「企業固有のプロセスで、自分のコアコンピタンスだ、と思っている領域も、実はそんなに特別ではなくて標準化しても問題ない領域」というのも、まだまだ残っているのではないか。

大いにありますね。たとえばある製品を作る際にマニュアルを書く場合、今までだったら、模型を作ってその写真を撮ったり、絵のうまい人がそれを模写したりしてて、その作業にここの企業でのノウハウが蓄積されてたのが、設計が三次元でできるようになって、そのデータがそのまま二次元に落とせるようになると、そんな作業やノウハウがいらなくなってしまう訳で、こんな領域こそ、芦野さんのいわれる「実は標準化できる領域」になる可能性があると思います。

ということで、この文章、非常に多くの有益なことを考えさせられました。また、僕が日頃感じていることと、まったくぴったりと重なる気がします。どうもありがとうございます。

Tomomi

もっちぃ、
コメントどうもありがとう。
このエントリを書いた時、私の頭にあったのは、業務アプリケーションの分野(CRMとか)だったのですが、他でも通用する事例があるよ!と言ってもらえて嬉しかったし、勉強になりました。
Autodeskの事例は、MicrosoftがWin32 APIを公開して、サードパーティによるソフトウェアが増加して、「Windows生態系」ビジネスという世界ができたのと似ている気がします。
それに倣ったかどうか分かりませんが、昨今はAmazonやGoogle、Salesforce.comもAPIを公開していますよね。こういう成功体験って、今に始まったことじゃなくて前からあったのか!というのが目からウロコでした。

またぜひ色々情報交換させてくださいね!

はせがわ

こんにちは、いつも興味深く拝読させていただいております。
いくつか思うところはあるのですが、少々コメントさせていただだければと思います。

仮説3に関してですが、
>今後も、パッケージソフトウェアは増加するだろうが、カスタムメイドの領域はなくならない。なぜならば、パッケージソフトウェアを使うということは、(厳密には違うのだが、極端に言い切ってしまえば)「他社と同じプロセス」ということだから。企業には必ず固有・独自のプロセスがあり、それが差別化・競争力の源泉のはず。

に関連して、もさんもご指摘の通り、パッケージを利用しても「独自・固有のプロセス」は生まれてきます。(それが競争力を生むかどうかは別に考える必要がありますが。。。)

私が考える仮説は、業務プロセスとソフトウェア(システム)はもともと関連がない(独立して存在する)、故にソフトウェアですべての業務プロセスをカバーさせようとした場合には、独自のソフトウェアを開発、利用を継続して行く必要があるというものです。(故にカスタムメイドはなくならない)

現状では、業務の中でソフトウェアを利用することが当然となっている領域(会計とか?)もありますが、その領域でさえソフトウェアがすべての業務プロセスをカバーするということはほぼあり得ない状況です。

もさんとは異なる例ですが、
業務プロセスに対するソフトウェアの利用は、「使えるところを使う」的アプローチで行われるところが多く(昔はBPRという言葉に押されて、「無理しても使う」というものが多かったですが。。。)、ソフトウェアではカバーしきれない業務ファンクションも多数存在していますし、その業務プロセスが「独自・固有のプロセス」である場合もあると思います。

それらをソフトウェア上で実現しようとした場合には、カスタムメイド開発が必要なり、そこで開発した経験を生産者(ベンダー)へのフィードバックすることで、新たな機能を追加して新しいバージョンのソフトウェアが登場するという(生態系? 私はエコシステムと読んでいますが(笑))ことが繰り返されています。(仮説2ですね)

将来に対しても、実は上記のようなことの繰り返しが行われるのではないかと考えています。理由は、業務プロセスは時間の経過とともに変化するからです。

業務とシステムが独立して存在し、ソフトウェアが現状の業務に寄って行ったとしても、100%のカバー率というのは考えにくく、かつ時間の経過で業務自体が変化して行くので、このスパイラルは変わらないのではないかと考えています。
また、業務の変化の要因はテクノロジーの進化にあるかと考えていますが、競争優位はテクノロジーだけを要因にしている訳ではないと考えられるので、差別化はできても競争優位になるかどうかはわからないというのが、私の考えです。

(余談ですが、ソフトウェアのみですべての業務プロセスカバーできた場合であっても、その利用の仕方によっては、独自・固有のプロセスを生みだせる場合もあるかと思います。
これは、生産者側が想定していた利用方法を顧客側が独自に乗り越え、自社のプロセスに適応させてしまうというような場合です。(この場合、独自・固有のプロセスはソフトウェアではなく、その利用方法を決めるプロセスにあったのかもしれませんが。。。))

長々と書いてしまいスイマセン。。。
考えを行うきっかけを作っていただいて感謝しております。今後も拝読させていただきたいと思っております。

ありがとうございました。

Tomomi

はせがわさん、
深い洞察コメントをいただき、ありがとうございます。
確かに「同じパッケージソフトを使う=同じプロセス。差別化できない」はちょっと短絡的だったかもしれませんねー。
「全ての業務プロセスをソフトウェアでカバーするのは無理」
「ソフトウェアでカバーされていない部分にも企業固有のノウハウ・競争優位の源は存在する」
「業務プロセスはどんどん変化して行くので、ソフトウェア(パッケージでもカスタムメイドでも)でカバーできない領域は残る」
全ておっしゃる通りだと思います。

例えば、大企業の場合、受発注業務(とりわけ受発注データをやりとりしたり、管理したりする部分)にはほぼ確実にソフトウェアが使われているかと思いますが、「そもそも、何を買うべきか」「どこから買うべきか」値段やカタログに現れないスペックを見極めるノウハウなんていうのは属人的なスキルであり、差別化要素ですよね。「納期を短くできないかネゴる」とか。

確かにソフトウェアでカバーされない業務は常にあるのですが、それと同時に、今日の企業活動がソフトウェア無しでは成り立たないことも、事実だと思っています。あと、パッケージソフトウェアの市場が拡大していることも。

ですので、今回のエントリは、「ソフトウェア市場全体が拡大して行く中で、決してカスタムメイドのソフトウェアは衰退するわけではなく、絶対的な規模は拡大して行くだろうが、全体に占めるパッケージソフトウェアの割合は徐々に増加するのでは?」という趣旨だとご理解いただけると嬉しいです。

#特に日本企業は「現場力」が強いので、属人的なスキル・ノウハウに依存する度合いがアメリカ企業に比べると高いかもしれません。
#実は、次あたりに書こうかなと思っていたのですが、アメリカが有力なパッケージソフトウェアベンダを次々生み出しているのは、現場力が(日本と比べると総体的に)弱く、マネジメントの仕事というのは、いかに属人的なスキルに依存しないオペレーションを構築するか、そのためにどうソフトウェアを活用するか、を考えるところにあるように思っています。CRMやRFIDなんていうのはその好例ですね。

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