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Bill Gatesの引退は既定路線だったのだろうと思う理由

Microsoft Announces Plans for July 2008 Transition for Bill Gates

遅かれ早かれ、Gatesの引退は既定路線だったと思う。(Web2.0時代のMicrosoftを担うのはGatesではなくOzzieだろう、という点については、この本にも書かせていただきました。)

Microsoftのガバナンスは、Gatesによる独裁から、複数人のエグゼクティブによる合議制(ローマ帝国の元老院政治がイメージ的に近いか)に変わり、同社の戦略は、今後はTechnology-drivenから、よりUser-oriented、ビジネス重視へ比重を移して行くのではないか。(完全に二者択一ではなく、割合として後者の重みが増すという意味で)

そう感じた理由は二つある。

1)他社、しかも他業界の大企業からのエグゼクティブ引き抜き

Microsoftがコーポレートガバナンスのフレームワークを変えようとしているのではないか?と感じ始めたのは、約1年前だった。かなりの要職に「外様」を採用し始めたことが印象的だったからだ。目立つところで言うと、CTOに買収したGrooveのRay Ozzie(2005年4月)、CFOにはInternational Paperから引き抜いたChris Liddell(2005年4月)、COOにはWal-martから引き抜いたKevin Turner(2005年8月)を、それぞれ抜擢している。

「外様」の採用が多い、というのに加えて、もう一つとても印象的なのは、同業他社ではなく、異業界(もっと伝統的な産業)の大企業からの引き抜きが結構多いことだ。ここでは全てを列記はできないが、最近も、DaimlerChryslerのプロダクト戦略担当副社長を採用したようだ。

若干余談だが、「アメリカ企業では終身雇用が崩壊していて、みんな2-3年で次々転職している」というイメージを持つ人が多いと思うが、確かにハイテクやIT業界ではそういう傾向があるとは言え、それ以外の業界、特に大企業では日本とあまり変わらないように見える。きちんとデータを取ったわけでないので、あくまで個人的主観的な印象だが、P&G勤続30年とか、Wal-mart勤続20年とか、ジョブローテーションしながら企業内でキャリアアップしていくのが一般的だと思う。(但し、昇進のスピードは日本企業より速く、早ければ30ソコソコで経営幹部と呼ばれるポジションに就く人も多い)

話をMicrosoftに戻す。Microsoftの人事というと、最近は、才能あるエンジニアをGoogle等に引き抜かれている話題の方が有名だし、正直に言うと、私はそれ以前のリクルーティング活動をマークしていないので、この1年ぐらいが以前と比べても格段に活発なのか、これぐらいの異動は前からあったのかは分からない。ただ、アメリカ企業の3トップであるCEO, CFO, COOのうち2名をわざわざ他社から連れてくると言うのは、やはり普通のことではないと思う。

2)GatesではなくOzzieによって出されたWeb2.0宣言

中島聡さんの記事、Ray Ozzieが「マイクロソフトのWeb2.0宣言」を書いた理由で指摘されているように、Microsoftが30年の歴史の中で、会社全体の方向性について全社員に対してメッセージが出されたことはたったの2回しかなく、しかも2回目のメモでは、Gatesから明確に「技術面のビジョンはRayに任せた」みたいなことを言われている。このメモは、Gatesの後継者がOzzieであること、リーダーのTransitionは時間の問題であること、そしてMicrosoftがWeb2.0時代も闘う気満々であることをアピールするために戦略的に公表されたものだったのだろう。

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但し、(人によって好き嫌いは分かれるかもしれないが、)技術とビジネス両面に長けているGates(※1)の存在は、やはり余人を以って換え難いだろう。組織の長期的・安定的な繁栄を目指すためには、今回の危機を乗り越えた後は、独裁から元老院政治へ変化していくことが必要なのだと思う。 私は独裁制自体を否定するつもりはないし、ある局面では合議を上回るメリットがあることは認めている。ただ、人間に寿命がある以上、代替わりできない組織は滅びていくしかない。

また、長い間Windowsを統括してきたJim AllchinがVista出荷後に引退することが発表され、Allchin引退後のPlatforms & Services Divisionはセールス・マーケティング畑出身のKevin Johnsonが率いることになっている。このようなマネジメントの陣容を見る限り、過去のビジネスの成功の立役者は去り、より大組織のマネジメントやオペレーション、セールス・マーケティングに長けた人材が集まり、Ozzieを支えていく体制を整えているのだろう。

言い換えれば、Microsoftは、組織的にイノベーションを創出・実行し続ける「大企業」としての力量を、これまで以上に意識しているように見える。足腰の強化は重要だ。但し、Microsoftが技術を売る会社である以上、適切な技術・製品が内側から生まれ出続けるかどうかは、もっと重要だと思う。果たして、それができるのかどうか?相当な難事業だとは思うが、今後も見ていこうと思う。

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できる者である」(※2)


(※1)Gatesは、中学生ぐらいの頃から根っからのコンピューター少年で、寝食を忘れてプログラミングに打ち込み、あまりに速攻で学校のコンピューター予算を使い切ってしまったため、コンピューターで遊ぶためのお金が欲しくてソフトウェアの仕事を企業から請負うようになった、というのは有名な逸話である。Gatesが自力でコンパイラを開発するほどの技術力を持つだけでなく、ビジネスマンとしても相当な才覚を有することは、必要とあらば自分が欲しい技術・製品を持つ他社を買収することも厭わないスタンスやタイミングにも現れている。

(※2)これは、GerstnerがCharles Darwin「種の起源」 (The Origin of Species) から引用したことで有名になった言葉だが、実は「種の起源」にはこの言葉がなかったらしい。Microsoftの再生は、Gerstnerが成し遂げたIBMの「奇跡の復活」と同じぐらいの難事業だろうが、IBMにだってできたのだから、決して不可能ではないと思う。

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