東京の桜
すでに起こった未来

日本の携帯端末市場に起こりうるパラダイムシフト

前回のエントリが分かりづらかったらしく、大量に反論をいただいたので、改めて補足します。

実を言うと、私はセミナーに参加する以前から、携帯に限らず、日本のハイテク・家電メーカーが今後も日本国内市場だけを見ていたらグローバルな競争の波・潮目の変化に乗り切れなくなるだろうという仮説を持っていました。

その理由は、「市場のローエンド顧客をターゲットにしている企業が、製品を改良して徐々にハイエンドへシフトしていく」よりも「ハイエンド顧客をターゲットにしている企業がローエンドへシフトする」ほうが遥かに難しいからです。

クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」「イノベーションへの解」の理論から言うと、

  • 漸次的な技術改良は必ず進む。企業は、より良い製品を提供し、よりハイエンドの顧客を獲得しようとする
  • 製品改良のスピードは、時として、顧客のニーズの変化のスピードを超えることがある。製品が改良されすぎると、市場に「従来製品に満足していない顧客」「満足度過剰の顧客」が現れる
  • 従来製品のスペックが過剰になると、当初「こんなの使えない」「おもちゃじゃないか」と言われていた技術や製品が、「従来製品に満足していない顧客」を捉えることがある。この顧客は通常、市場のローエンドに現れるが、従来製品のリーダー企業にとっては「小さすぎるマーケット」「存在しないマーケット」のため、対応できない。
  • 当初はニッチしか捉えられないと考えられていた新しい製品は、性能が改善されて、徐々にハイエンドの顧客にも受け入れられるようになっていく。その過程で、従来の業界バリューチェーンは破壊される。

コンピューターのアーキテクチャーも、かつては部品間のインターフェースや機能が相互依存的で、1社が全体を開発した時代がありました。しかし80年代前後にパラダイムシフトが起こり、OSはMicrosoft, マイクロプロセッサはIntel、と独立した部品の組み合わせから成り立つ「モジュラー」型に変わり、同時にそれまでのリーダー企業だったDECやIBMの地位が下がりました。当初は「使えない」「おもちゃ」と言われていたPCが、今日ではハイテク市場で大きな地位を占めるようになったのは、言うまでもありません。

「それはユーザにとっていいことなの?」というfundiverさんのコメントは全く正しいと思います。携帯電話の市場が成長・成熟してくる過程で、コンピューター業界にPCが起こしたのと同じパラダイムシフトが近い将来起こるのではないか?と予想しています。私の想定したシナリオは、

  • 携帯端末の高度化が進んだ挙句、顧客がその性能改善に対して価値を見出さなくなる。「こんな機能、誰が使うの?」「ごてごてしすぎて使いこなせない」
  • ローエンドの顧客に低コストな製品を提供するメーカーが現れる(国内からではなく海外からかもしれない)当初それはハイエンドの顧客に「こんな携帯、おもちゃじゃないか」「使えない」といわれる。
  • 低コスト製品提供メーカーが性能を改善する。徐々にハイエンドの顧客を掴むようになる。
  • 低コスト製品提供メーカーがローエンド⇒ハイエンドへシフトする過程のどこかで、端末のアーキテクチャーがモジュール化される。部品ごとに特化したメーカーが出てくる(OS、プロセッサ、液晶、etc)
  • 低コスト製品提供メーカーのハイエンド進出により、高度にカスタマイズされた部品を1機種ごとに全て設計、製造している現在ハイエンドの垂直統合型メーカーのプレゼンスは相対的に低下する

現に(少なくともアメリカでは)携帯電話とPDAは融合の傾向にあり、Windows CEやシンビアンといった「OSの標準化」が起こりつつあります。

ただ、日本の従来キャリアには自分が業界全体のイノベーションをリードしてきたという自負もあるでしょうし、メーカーは端末を提供するのみならず、通信市場全体にハードウェアやソフトウェアを提供しており、非常に垂直統合が進んだ市場で、キャリアとメーカーの繋がりが強いので、誰が最初に変化の口火を切るかが今までは分かりませんでした。ソフトバンクは、えいめさんがご指摘されたとおり、外国端末を持ってこようと思えば持ってこれるポジションにいます。

このような市場のパラダイムシフトに対してどうするべきかというのは、あくまで当事者が決めることですので、私も「正しい答え」など持っていません。ただ一ついえるのは、グローバル化の流れは、携帯端末に限らず、今後加速することはあっても後戻りはない(一時的・局所的なバックラッシュはあるでしょうが)と思います。

繰り返しになりますが、韓国には、日本と並ぶ世界最先端の市場で戦いながら、同時にグローバルに対して億を越える端末を売っているメーカーが存在するわけですから、彼らの戦略・オペレーションを分析してみたら大変面白いと思います。

Comments

fundiver

とてもわかりやすい説明(補足?)ありがとうございました。
日本の携帯端末ベンダがPHSの二の舞にならないことを切に祈るばかりです。

# いやあ、PHSは世間に出るのがあまりに早すぎました。
# VoIPの最先端を走っているつもりの今の勤務先でも良く出るネタです。
# あのシステムが今の市場(特にEnterprise向け)では一番適しています。(・∀・)

Tomomi

レスが遅くてすいましぇん。。。。
ちこっとでも何かのヒントになれば嬉しいです。

PHSはタイミングもだけど、出方が良くなかったのかもね。
組織的な問題とか、マーケティングのやり方とかで、携帯と完全にカニバリを起こしてしまったように思います。
これもまた後知恵ですが。

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