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「ソフトバンク、ボーダフォン買収で幕が上がる120兆円情報通信産業の波乱の行方」に参加して(2)

「ソフトバンク、ボーダフォン買収で幕が上がる120兆円情報通信産業の波乱の行方」に参加して

グロービス×Emerging Technology研究会開催の「ソフトバンク、ボーダフォン買収で幕が上がる120兆円情報通信産業の波乱の行方」に参加してきました。議事メモ…というより、疑問が色々出てきたので、話を聞いて自分が考えたことを書きます。

なお、このエントリにおける「Vodafone」とは、特に「グローバルの」と明記しない限り、日本の「ボーダフォン株式会社」のこととご理解ください。また、分析のソースはセミナーで語られた内容と公開情報であり、ここに書かれているのは全て私の個人的な考察・見解であることを予めお断りしておきます。

●買収額の妥当性

Vodafoneの決算説明資料(PDF)にある情報から同社の状況を見て行くと、2004年度の売上高は、1兆4,700億円だった。顧客1人当たりの平均売上高(通信業界では一般にAverage Revenue Per User, 略してARPUと呼ぶ)は6,150円。前年比8.6%減であり、2000-2001年の7,900円をピークに緩やかに減少している。また、ARPUに占めるデータ通信の割合は20%強で、2002年以降はほぼ横ばいとなっている。営業利益も前年比14.0%減。純増シェアは2004年度中にマイナスに転じた。また累計市場シェアも2003年の18.6%をピークに17.3%まで下がっている。四半期のChurn Rateは2%前後を維持している。

詳細な分析を行なったわけではないし、私はM&Aの相場について詳しくないので、他のディールと比べてどうかコメントできないが、Vodafoneのほぼ1年分の売上高に相当する1兆7,500億円という買収額は、毎月100億円近くのキャッシュインをもたらしてくれる1,500万顧客というCash cowの代金としては「そんなに高くないんじゃないの?」というのが素朴な感想である。

●メリットとリスク

垂直統合でYahoo! Japanのポータルやサービスをテコにした顧客の囲い込み・差別化ができるという話もあるが、瞬時に結果が見えているのは、何と言っても毎月100億円近くのキャッシュが入ることだろう。

ソフトバンクグループの経営状況をアニュアルレポート2005(PDF)から見て行くと、売上高は連結で8,370億円(2005年3月期)そのうち最大の割合を占めているのがイーコマース事業(29.2%、2,549億円)だが、これは主にYahoo!BB関連の販売が占めているようだ。次がブロードバンド事業(23.6%、2,053億円)そして日本テレコムの固定通信事業(19.1%、1,668億円)と続く。ここまでを大きく「通信」と括ってしまうと、ソフトバンクの売上高の71.9%が通信事業なのである。ブランドイメージとして大きく貢献しているYahoo!は11.8%、1,024億円であることを考えると、ソフトバンクは今や立派な通信事業者と言ってよい。しかもVodafoneを買収することで一気に倍以上の規模に成長することができる。

Vodafoneの設備は古いとか年間の設備投資額が1,667億円も掛かるとか、リアルアセットを背負うことの負の側面もないわけではない。しかし「ネットで儲かるのは当面は広告」と考えると、当面のキャッシュインとユーザー数を増やして広告媒体としての価値・魅力を増すことができるメリットが今のところ一番大きいのではないか。(しかし、「何だかんだ言って、とりあえず毎月100億円がチャリンチャリンと入ってくるのって嬉しいよね」という論点については、なぜかセミナーでは誰も触れなかった。あまりに当たり前なので誰も言わなかったのかもしれない)

買収手段とその妥当性あるいは問題点については、私は詳しくないのでコメントしない。

●ソフトバンクあるいはYahoo!の参入によって通信業界はどう変わるか

「携帯電話事業に関しては、すぐにはあんまり変わらないのではないか」と思った。

今後始まる番号ポータビリティは果たしてVodafone(あるいはソフトバンク)にとって追い風となるだろうか?

一足先にこの制度を導入した(2003年11月だったはず)アメリカの例を見てみると、おそらくアメリカで最もシェアが高いVerizon Wirelessの月次Churn Rateは、2005年に「業界で最も少ない」1.3%となっている。 他キャリアでも2%前後らしいのでこれを四半期に換算すると、番号ポータビリティが導入されるとChurn Rateは2~3倍になると推定できる。つまり、番号ポータビリティ導入後、Vodafoneから他キャリアへ乗り換える顧客は、四半期毎に30万人から60万~90万人に増えることになる。月次売上高に直すと、100億円中4,000万~6,000万円の損失(番ポ前に比べて2,000万~4,000万円損失が増える)というところだろうか。。。しかし実際は、他キャリアからの乗り換えで流入する顧客もいるはずなので、単純に顧客数が減ることはないだろう。また、Vodafoneの新規顧客獲得費用は1人当たり38,300円前後とのことだが、もう少し上がる可能性はあると思う。

消費者の価格敏感度やサービス品質の差を詳細に見たわけではないし、アメリカのChurn Rateは元から日本より高かったはずなので、一気に結論付けるのは乱暴かもしれないが、「番号ポータビリティがあってもなくても意外と消費者は変わらない」のがアメリカの現実だったように思う。

それから、「そもそも周波数帯というリソースを国が免許という形でコントロールするスキームの是非」を問う意見も、あるパネリストからは出たが、他のパネリストからあったように「ソフトバンクも、今は現状のスキームに従った方が良いと判断したのでは」という指摘に同意したい。(そう判断した根拠・理由は色々あるかと思う)

「ハードウェア(携帯端末)からサービスまで含めた形での垂直統合が今後どのように展開するか」については、ここまでが長くなったので、次のエントリとしたい。

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