UNIXベンダの現状
November 26, 2005
UNIXの起源は、AT&Tのベル研で開発されたオペレーティングシステムである。ベル研の知的財産開放義務のため、元々オープンソースのOSであり、それを各ベンダが独自の技術・工夫を凝らして性能・機能を改善して市場に投入した。UNIXは、スーパーコンピュータに対するローエンド破壊(※クレイトン・クリステンセン「イノベーションのジレンマ」で言われている、“既存企業にとってそれほど魅力的でない下位顧客層を奪って成長する”イノベーションのこと)だと言われている。
UNIXサーバのメジャープレイヤとしては、Sun Microsystems (Sun), Hewlett-Packard (hp), IBMあたりが挙げられると思うが、今回はSunとhpの現状についてまとめる。
結論としては、この2社の主力商品(UNIXサーバ)はコモディティ化・あるいは成熟化している可能性が高い。本当は、サーバにも色々なレベルがあるので、細かく見て行けば、減少しているものと成長しているものがあると思うが、詳細なデータは手に入らなかったので、今回は大きな流れで見て行く。
●Sun Microsystems
業績の方は、4年度連続赤字である。今日の業績の原因としてアニュアルレポートで説明されているのは、
- 商品の値下がり
- ローエンド商品(エントリーレベルサーバ)への顧客需要のシフト
(グラフでは表示していないが)Sunの粗利は4割ぐらいある。この数字はIBMと比べても悪くない。問題は、販売管理費と研究開発費が粗利を上回る額だということだろう。あえて乱暴な言い方をすれば、マーケティングやR&Dの効率が悪い(つまり、お金を掛けている割に儲けに繋がっていない)と言えるかもしれない。
1982年創業のSunは、2001年に売上高がピークを迎え、2002年以降は減少傾向にある。ということは、単純に考えると、主力商品のライフサイクルが成熟期後半に入っている可能性がある。
(※データは同社の2005年度アニュアルレポートによる)
Sunの今後は、Solarisの次のヒット商品を出せるかどうかに掛かっているのではないか。
Javaは当初(今も?)Fat server/Thin clientのコンセプトを目指していた。サーバ側にプログラムを置き、 実行する。これを突き詰めると、クライアント側はJava VMさえ動けば何でも良い。サーバ側は処理能力の高いSolarisを置いて、プログラムはJavaで書きましょう、サーバで実行させま しょう、というのがSunの売りなのだと思う。世界中の全てのPCにWindowsを載せるというMicrosoftの野望(途中で無理と気づいて.NETに転換したが)はクレイジーだが、Microsoftに真正面からがっぷり四つに組んで勝負を挑むSunも、相当クレイジーである。
※「クレイジー」は誉め言葉です。「自分が世界を変えるんだ」と思えるぐらいクレイジーな人が世界を変える(The people who are crazy enough to think they can change the world, are the ones who do)というアップル宣言にちなんでます。
コンピューティングに対して、これだけのビジョンと遂行能力を持っている会社はあまりないと思う。しかし、Sunが何をどうやって儲けたいのか、Solarisの次のヒット商品がサーバOSであるべきなのかどうかは、まだ私にはよく分からない。
●Hewlett-Packard
hpについては以前も書いたことがある。hpのPCは、9割近くの製造工程はEMSへアウトソース、デザインにおいても1/4は台湾のEMSが手がけている等、かなりコモディティ化が進んでおり、hpとしての付加価値があまり発揮されていないので、当時から「この会社はこれからどうなるんだろうか?」と思っていた。
hpの業績を見ると、状況はかなりSunと似ている。大きな違いは、hpはプリンタ(というかカートリッジ?)は儲かっているということである。
改めてアニュアルレポートを読むと、PCやサーバ、プリンタ等で高い市場シェアを持っていることがアピールされている。しかしそれと同時に、厳しい価格競争に巻き込まれてマージンを失ったということが、繰り返し出てくる。これは、見方を変えると、hpの製品には付加価値がないということであろう。
製品自体がコモディティ化しても、DELLのように、受発注や組立・配送等のプロセス改善を付加価値にする会社もあるので、「製品がコモディティ化した会社は、即、付加価値を失う」とは言わない。実際、フィオリーナは、DEC/COMPAQを買収し、製品ラインを統合して更なる成長を目指していたのだろう。それは間違ってはいない。買収によって規模を拡大し、効率化によって収益を絞り出す経営戦略は、特に成熟した大企業にとっては「アリ」だろう。それより、むしろhpの業績の原因は、R&Dが「お荷物」化していることにある、というのが夫の指摘でもある。
(※データは2003年度、同社アニュアルレポートによる)
シリコンバレーも昔マサチューセッツ州ボストンが歩んだ道を
進んでいるような気がしますね。
Posted by: 伴大作 | December 07, 2005 at 11:56 PM
というか、アメリカの製造業はグローバル競争下ではことごとく死んでいっているという身も蓋もない議論も。
GMもフォードもキツイし。
Posted by: SW | December 09, 2005 at 12:49 AM
>>伴さん
ルート128は「モジュール化」という製品アーキテクチャ変化に伴う業界構造変化に
対応できずに沈み、UNIXベンダは製品コモディティ化に伴って苦しくなった、と
原因には多少違いはありますが、
突き詰めると、ほぼ全ての製品が時間が経つにつれてコモディティ化するし、
一つの企業が、一度ヒット商品を出して一世を風靡する事はできても、
業界構造の変化に耐えうるようなイノベーションを起こし続けることは
非常に難しいんだろうなあと思います。
Innovator's Dilenma, Good to Greatを読んで以来、
「繰り返し自らの既存ビジネスを破壊して新しいビジネスを創造し続ける組織」
はあるのか?あるとしたら、どんなものか?
ということが私の関心事になっています。
なので、IBMは、それに成功したかなり稀有な例として注目しています。
また、Sunとhpが、次のヒット商品を出せるかどうか、そういう点からも
興味深く見ています。
>>SWさん
「製造」というのは、突き詰めて言えば、一度確定した設計情報を
何らかの媒体に繰り返し落とし込んで行くプロセスだと思います。
「製造」プロセス自体は、近年急速にコモディティ化するようになったので
新しい製品を創出しても、それが安く大量生産できるようになるまでの時間が
短くなってきたというのは、確かだと思います。
「アメリカの製造業はダメになった」と言うよりは、
「新製品の投入によって競争優位を維持できる期間が短くなった」
というほうが正確だと思います。
サービス業は、性質上輸出が難しいので、外貨を稼ぐためには
製造業でプレゼンスを維持することは重要だと思います。
IT等、関連する業界への波及効果も大きいですし。
ただ、個人的に今気になってるのは、
中国等、アメリカや日本のメーカーが作り出した新製品を
すぐに安く作れるようにする国も、現在はコストの差を武器にしてますが
少し長い目で見ると、アメリカや日本とのコスト差は縮まっていくはずなので
グローバリゼーションが進むに連れて世界の貧富差が相対的に小さくなったら、
その後はどうなるんだろう?ということですかね。
Posted by: Tomomi | December 12, 2005 at 01:10 PM
> グローバリゼーションが進むに連れて世界の貧富差が相対的に小さくなったら、
> その後はどうなるんだろう?ということですかね。
進んだ後、各国内需が増える、資源を圧迫するという既に出ている傾向に拍車をかけるのはまず出てくるところとして、製造能力とマーケティングの勝負になるんでしょうねぇ。
日本みたいになれますか?サムソンみたいな戦略取れる?ということなのかも。
Posted by: SW | December 13, 2005 at 04:18 PM