生きてゆく意味
M・クスマノ「ソフトウェア企業の競争戦略」

コンピュータ業界でモジュール化が成功した幾つかの理由

「現在コンピュータ業界のリーディング企業が一体何で儲けているのか、今後どちらに向かおうとしているか、各社の取組みや戦略を公開情報から分析」すると言ったのですが、個別企業の戦略・取組みを考える前に、まずは業界全体がどういう競争原理で動いているか、私の理解をまとめたいと思います。

コンピュータのそれぞれの部品が相互依存的な関係にあり、1つの会社が全体を開発する必要があった時代から、IBMのシステム/360によって、それぞれの部品が独自に進化を遂げることが可能になったため、イノベーションのスピードが著しく加速した

というのが「コンピュータ業界に訪れた転換点とは」で書いたことです。

これを、「製品アーキテクチャのモジュール化」という観点で私は捉えています。モジュール型のアーキテクチャには、多くのメリットがあります。しかし、「そんなに良いなら、どの業界もモジュール化すれば良いんじゃないの?」と単純には行きません。なぜなら、それは大変難しく、成功するためには色々な条件があるからです。

  • そもそも、なぜコンピュータ・IT業界ではモジュール化が成立したのか
  • 製品アーキテクチャのモジュール化がもたらすメリット、デメリットとは何か

について、以下、整理します。

■モジュール化のメリット

  • 製品に対する機能付加、機能削除が容易になる
  • 設計・開発業務を短期間で行なえる
  • 複雑な製品を開発するのが容易である

■モジュール化のデメリット(というか、課題?)

  • 製品を分割しなければならないが、その分割ルールの設計が難しい
  • コストが掛かる(ルールを作り、業界に普及させる時間と手間、検証のための実験、企業間取引コスト)
  • 競争が厳しい

■モジュール化を成功させる要因

  • 各モジュールに対する実験(参入企業数)が多いこと→不確実性の高い実験の場合、分離・独立した組織がそれぞれ実験を行なうほうが成功の確率が高くなる。
  • 成功した場合に得られる利益が大きいこと(Winner-takes-all)→参入企業数を増やすし、参入企業を応援するベンチャーキャピタルの資金援助も期待できる
  • 競争の激しい分野であること(競争が激しいほど技術革新も激しい)
  • フェアな競争が行なわれているということを参加者が信頼していること

まとめると、ある製品アーキテクチャをモジュール化することによって、多くの富が創出されると皆が期待しており、小さな組織が多数競争に参入することが可能で、競争のEnablerとしての資金提供・競争のレフェリーとしてのベンチャーキャピタリスト等の存在があり、参入企業の信頼を得ていること、こういう条件が揃う場合、最もモジュール化はうまくいきやすい。ということになります。

これを見ると、小さいベンチャー企業が多数林立するシリコンバレーの興隆と、産業アーキテクチャとの間には密接な関係があることが分かる気がします。

#シリコンバレーはかなり特異な土地で、他にも色々な要因が絡み合っているので、産業アーキテクチャだけ真似すれば、すぐに他の土地にもシリコンバレーが作れる!とは言えないのですが

加えて、クリステンセン「イノベーションへの解」で指摘されている、

新しい製品の市場が立ち上がる際には、当初は、性能や技術改良のスピードが十分な顧客のニーズを満たせない。従って、最適化された相互依存アーキテク チャを持ち、統合が進んだ企業が最も成功する。しかし、性能が十分なレベルに達すると(より正確に言うと「顧客の利用能力を上回ると」)モジュール特化型 メーカが優位を獲得する。

つまり、その産業の成熟度が、顧客の利用能力に比較してどの段階にあるのか?によって、モジュール型アーキテクチャが適しているかどうかが分かるというのも、大変興味深いポイントでした。

それでは、モジュール化されたコンピュータ業界で、今日儲けているのは誰か?彼ら/彼女らは、どうやってそのポジションを獲得したのか?を、次回以降に考えてみたいと思います。

Comments

伴大作

ご無沙汰しています。

素晴らしい分析ですね。

一度お会いして議論を戦わせたくなってしまうほどです。
モジュール化に関しては、仰せの通りです。
最も典型的なものがPCであり、IAサーバーです。
デファクトスタンダードという名の下に多くの
コンポーネントベンダーが参入し、それらを
組み立てるのはコンピュータベンダーである必要がなく
なったようです。

つまり、この中で、最も金額高いコンポーネントしかも、
暫くの間はその製品が一部の改良で済んでしまうベンダーが
一番設ける結果となります。シアトルの会社のことですが、
実際に見えるものを作っている訳ではないので、丸儲けですね。

このような動きが実はハイエンドサーバにも押し寄せています。でも、以前のようにバスの改良が進まないので、CPUが早くなっても実際の処理速度がそれ程向上しません。
どこかで技術のブレークスルーが必要なのでしょうが、
何時なるやらですね。

Tomomi

伴さま、
お誉めの言葉をありがとうございます。

「最も金額が高い」「しばらくの間は一部の改良で済む」ベンダが一番儲ける、
というご指摘、大変興味深いです。

モジュール化が起こる時は、必ずしも製品アーキテクチャを決めた人が儲けるわけではない
という点は、青木昌彦・安藤晴彦「モジュール化」でも指摘されていました。
一体どうすれば儲かるポジショニングに行けるのか?というのが、今一番の関心事です。
この業界の人は、みんなそうかもしれませんが(苦笑)

順番から行けば、次はハイエンドサーバだろうなあ、とは薄々感じていました。

最近ハイエンドサーバの会社はどこも仮想化技術に力を入れていますよね。
PCのモジュール化の立役者だったIBMが「次の波」でも重要な役割を果たすんじゃないかと
密かに思っています。

伴大作

ハイエンドはIBMの場合、PとZシリーズになりますが、
どちらも独自OSです。
それ以外ではグリッドコンピュータのBlueとPurpleが
あります。何れもOSはLinuxです。
こちらのほうが、将来性は高いですね。GGFでも
多大なる貢献を行い、OGSAを提案、全米科学財団の
数多くのプロジェクトも同社が受注を獲得しています。
GIRDはCPUやストーレッジ、メモリーの仮想化とマネージメント、ヘテロ環境が特徴ですが、実際にはマッシブ・クラスター
コンピュータの一種だと申し上げることが出来ます。
実際、科学技術以外のGRIDで商用化に成功しているのは
IBM一社(サンマイクロは技術的に完成しているのだが
肝心の売り子が居ない)で独占状態に入りつつあります。
この分野でも、日本の企業は遅れをとっています。

Tomomi

伴さま、

これはブログに書こうと思っているのですが(笑)
IBMは「サービスの会社」に変質しているのですよね。

私は、サーバ市場は「箱」売りから「能力」を売る方向に
どんどん変わって行くと思っています。
顧客が求めているのは「箱を買うこと」ではなくて、
「業務を処理する能力が欲しい」と言うことだと思うので。

もちろん、箱自体が安くなるのは嬉しいけど、
実は、顧客にとっては、サーバを買うための事務処理・手続きとか
買った後の管理・運用に掛かるコストの方がでかいんじゃないか?
と、最近ふと思ったのです。

なので、「サービスを売る」IBMが、仮想化技術に力を入れるのも、
自社独自OSにこだわらずLinuxをサポートして行くのも、筋が通っていると
(私は)思います。Sunのポジションが今難しいところにある、というのも全く同感です。

伴大作

いやぁ、申し訳ありません。Blogに書く予定の
事を指摘したようですね。

僕はSNSのEchoo!とmixiに入っています。
mixiは会員なのでしょうか?Echoo!は
外部公開可能なので、宜しければそちらをご覧ください。

http://echoo.yubitoma.or.jp/index.htm

今後とも卓越した見解をお書き頂けますよう
お願い申し上げます。

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