女の生き方(エビータとクレオパトラ)
June 02, 2005
塩野七生は「ローマ人の物語」で、エジプトの女王クレオパトラの生き様を考える際、「ひとかどの女ならば生涯に一度は直面する問題」として、こう説いた。優れた男は女の意のままにならず、意のままになるのはその次に位置する男でしかない、と。
以前、ミュージカル「Evita」を観に行った。
パンパの貧しい家に庶子として生まれ、15歳でタンゴ歌手と駆け落ちしてブエノスアイレスへ。次々と付き合う男性を変えながら出世街道を駆けあがり、人気女優を経て、政治家フアン・ペロンの2番目の妻、そしてファーストレディとしての地位を得る。婦人参政権を実現し、労働者を組織し、福祉問題に多額の資金を投入し、アルゼンチンの民衆からは「聖女」と呼ばれるが、単純な「バラマキ」政策や、隠し資産疑惑、蔭の大統領として気に食わない者を更迭するなど、その指導力に軍からの疑問を挟まれる。正式な副大統領に就任する直前に子宮ガンが発覚。わずか33歳の若さで亡くなった後も、永久保存された亡骸は政治の思惑に翻弄され続け、なんと17年間も行方不明になっていたという。「エビータ」エヴァ・ペロンの波瀾万丈の人生を描いた、実話に基づくストーリーである。
エビータは、大統領夫人として政治の実権を握った。彼女の政策に対する世論は激しく割れたし、「男を転がして」出世していくやり方に対する批判も絶えなかった。
「もしエビータなかりせば」ペロンは大統領になれたのだろうか?
彼女の死後たった3年で大統領の座を追われて亡命し、後に、軍部の台頭に対する警戒を強めた勢力によって担ぎ出され、たった1年だけ大統領に返り咲いたペロン。
エビータがペロンを利用したように、ペロンは、女優としての彼女の人気や、貧しい生い立ちからの立身出世という背景を、大衆へのプロバガンダに利用した。エビータの病気や亡骸すらも政治的に利用した。そして、平穏な生活さえ送れれば別に大統領になれなくても…と言うペロンを奮い立たせたのがエビータだったこと、ペロン自身の政策に対する評価もさほど高くなかったこと、等を考えると、やはりエビータの「内助の功」によるところが大きいのではないか。
愛する男と手を取り合って自分の城を築き、そして自らの死の前後に帝国の崩壊を見た2人の女性は、「次席の器でしかないものに、主席もやれるという誤信を植えつけた」(塩野七生によるクレオパトラ評)と言って良いだろう。
エビータは、大統領就任後に更に若い愛人(ペロンとエビータの年齢差は24歳である)を作って妻を疎んじる夫に対し、その政策への非難を公然と隠しもしなかった。副大統領という正式なポジションをも要求した。そして聖女と呼ばれながら死んだ。
クレオパトラは、愛する男の正式な妻、子どもに対する正式な後継者の立場を認めさせることには成功した。しかし彼女は一国の女王、夫アントニウスは、ローマの指導者としての権力を若きオクタヴィアヌスと争う立場にあった。彼女の願いを叶えた結果、アントニウスの政治的立場は失墜に追い込まれ、プトレマイオス朝も女王の命と共に滅びた。
女の浅慮と笑うのは簡単だが、恋愛・結婚と、仕事とを、どのように自分の人生に位置付けていくべきなのか。女にとっての難しさは、男にとってのそれと、少し違った意味合いがあるような気がしてならない。
#「私は仕事と結婚しました」と言い切る女性はいるが、同じように言う男性はいないしなあ。
で、肝心のミュージカルですが、アンドリュー・ロイド・ウェーバーってスゴイ作曲家だと思いました。ミュージカルだから当たり前ですが、曲が素晴らしかったです。Evitaだけでなく、Catsもオペラ座の怪人も、知名度No. 1の曲(Don't Cry for me ArgentinaとかMemoryとか)はシンプルで美しい旋律だけど、一皮むくとけっこうマニアック、しかし普通の人もスンナリ聴けてしまう、というバランスがすごい。
キャストは、特にチェ役(革命家チェ・ゲバラがモデルらしい)の俳優さんが素晴らしかったです。
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