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近況報告

沼上幹「組織戦略の考え方」

沼上幹「組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために

この方のお名前はよく見掛けていたのですが著書を読んだのは初めてです。
なので、他の本については分かりませんが、(私にとっては)読み易い文体でした。表現が平易かつシンプルで力強さがあり、たとえがありふれていないのに納得感が高かったです。まぁ、何より、内容に対して「あるある」度が高かったからなのでしょう。

まず目次だけ読んでも「おぉ!」と読みたくなること請け合い(私はそうでした)なのでとりあえず目次と、各章の簡単なまとめ(私のメモですが)を付けます。

◆目次と各章のサマリ

     

  • 第1章 組織設計の基本は官僚制

    「官僚制」という言葉はどうも最近世間では旗色が悪いネガティブなイメージで語られがちだが、実は会社を支える基本・足腰。ルーチンワークを確実に遂行できる人たちがいなければ会社は成り立たない
     
  • 第2章 ボトルネックへの注目

    「ザ・ゴール」の「ボトルネック」の概念を組織の意思決定に適用している。仕事のできる人に仕事が集中しがちなので、そこが組織のボトルネックになる。その人でなければできない仕事以外はなるべく他の人に担当させ、エースのリソースを無駄にするな
     
  • 第3章 組織デザインは万能薬ではない

    「うちの組織はメチャクチャだ」「マトリックス組織万能論」に対して、問題を解決するのは組織設計ではなく最後は人だ、と一刀両断
     
  • 第4章 欲求階層説の誤用

    マズローの5段階の欲求階層説―「最後に人間がたどり着くのは自己実現欲求」だけが強調されすぎると、その一歩手前にある「承認・尊厳欲求」が軽視されるのが問題である。「自己実現という美しい言葉」は、会社にとって安上がり(ポスト・賃金を与える必要もなく、個々人が勝手に自己実現し続けてくれれば良いから)であり、金もポストもなくても、多くの手段がある
     
  • 第5章 組織の中のフリーライダー

    「厄介者」「怖い大人」という概念を用いて説明。「信頼できる中間層」をいかにして確保するか
     
  • 第6章 決断不足

    組織が安定してくると「落としどころ感知器」としての能力の高い人が登用される傾向がある。トップが決断できない組織は、どのような特徴を持ってくるか(①フルライン、フルスペック要求 ②経営改革検討委員会の増殖 ③人材育成プログラムの提案 は、どれもトップが決断できないがゆえに起こる)
     
  • 第7章 トラの権力、キツネの権力

    組織の実力者を「トラ」その威を借り、自分に都合の良い方向に意思決定を捻じ曲げる「キツネ」、キツネの権力を作らないためには、社内調整専門のポストを作るべきではない
     
  • 第8章 奇妙な権力の生まれる瞬間

    「宦官」の台頭を許さないために、「ウチ向きマネジメント」を昇進の評価基準にすべきではない
     
  • 第9章 組織腐敗のメカニズム

     
  • 第10章 組織腐敗の診断と処方

9&10章はとりわけ面白かったので、下に改めてまとめます。

「組織の寿命は30年」という言葉が80年代にはやったそうですが(当時私は義務教育中なので伝聞形)、30年という数字の妥当性はともかく、年数が経つとほうっておけば組織は腐るものだ(その傾向が強い)というのに異論のある人は少ないでしょう。ここでは、組織が腐って行くメカニズムを2つのキーワードで説明しています。

     

  1. ルールの複雑怪奇化

    古いルールや手続きを廃棄処分にして新しいルールを作る新陳代謝が起こりにくく、古いものの上に新しい物が追加的に加わるため、古い組織ほど複雑怪奇なルールを持つ。「ルールの抜け道」「運用」のプロ、すなわち社内宦官が権力を持つようになり、外からお金を稼いでくる「武闘派」の足を引っ張り、若手が徐々に宦官化していく
     
  2. 成熟事業部の暇

    成熟事業部ではみんなが仕事に慣れてきているので仕事遂行能力が余っている。その余った時間で内向きの無用な仕事(ムダに社内用の企画書・プレゼン資料に凝りはじめる、他人の資料にケチを付ける能力の洗練とそれをかいくぐるための根回し労力の増加、秀才が暇を持て余し本来必要ではない細かなスペック変更が行われる)が次々と生み出される

◆組織の「腐敗度」チェック指標

皆がどれだけ暇で、暇がどれだけ内向きの仕事に費やされているかをチェックする指標であり、以下の2つが挙げられています。

     

  1. 社内手続きと事業分析のバランス

    新規事業開発の企画を正当化するのに、事業内容の検討と、社内正当化プロセス(稟議)に費やす時間の割合 -- 社内からの批判の対処に4割時間を取られているようなら病気
     
  2. スタッフたちのコトバ遊び

    ①社員の雑談の内容が内向きか、外向きか -- 管理職・経営陣の仲の良さ悪さに関する感情論や、当事者が傷つくといった配慮論(内向き)か、最近調子の良い社内の新事業はなぜ成功しているのか、逆に失敗した事業はどこがダメだったのか(外向き) ②本社戦略スタッフの企画がメタファーを多用したコトバ遊び -- 戦略実行の現場をイメージできない空理空論 -- になっていないかどうか

◆腐敗からの回復

組織の問題は、最悪の事態に至るまで、なかなか必要な手立てが打てないのが難しいところですが、腐った組織を復活させるためのポイントが、3つ挙げられています。

     
  1. 複雑怪奇化したルール・手続きは全面的に破壊
     
  2. 成熟事業部から優秀な若手を乱暴に引き抜き、新規事業等、外向きの意識になる仕事へつける
     
  3. 忙しさと暇のメリハリをハッキリつける組織運営 -- 最初のステップとして、仕事ができる人を暇にすると、新事業開発や省力化など利益に直結する新しい仕事を考案できるようになる

以下は雑感・オマケなので興味のある方だけどうぞ。

◆個人的に身につまされた話

個人的な話で恐縮なのですが、私がこの本で一番身につまされたのは、「腐敗の伝染」についてです。

まず顧客=発注元である公的な組織(Tomomi注:官庁のような公的組織はとりわけ腐りやすい特徴を持っていると指摘されている)は、何かを調達しようとする際に、奇妙な組織内ルールが多数あり、そのルールを回避しつつ、本来の業務にとって適切なものを購入すべく仕事を進めている。このとき、注意するべきことは、この公的な組織は購入するべきモノの選定に時間を費やしているのではなく、そのモノの選定自体は既に終わっているのに、「まさにそれが必要であること」とか「他のメーカーのモノではなくこのメーカーのモノでなければならない必然的な理由」といったものの考案に時間をかけ、その書類作りに奔走しているということである。
 この「理由づけ」をルールどおりに行うために、組織は多様な奇麗事で作られた虚構のストーリーをいくつも創り上げる。その虚構のストーリーをたやすく創り上げることのできる人がその公組織では「有能」だと思われ、またそのストーリーづくりに有益な協力のできる「業者の営業マン」が「有能」だと好評を博すことになる。
 どれほど腐った組織内の評価であるにせよ、曲がりなりにも顧客が高く評価し、実際多くの案件を獲得してくる営業マンはやはり有能な営業マンになる。だから、この虚構のストーリーをでっち上げる才能は、納入業者側の組織内でも徐々に評価を高めて行くことになる。

うーん。。。。。

◆この本との出会い

日本で本を仕入れた時に、お友達の黄昏さんから「組織の腐り方」だけでも読む価値がある、と勧められて買いましたが、いやー本当に面白かったです。FPN杉本さんも、「学者の方とは思えないほどの、組織の内情への精通ぶりに驚かされます」と書いているように、沼上教授の洞察・観察に対して、日本の大企業と言われる会社の人なら共感するところが多いと思います。驚いたのは、この方、てっきり企業組織で働いた経験があるのでは、と思ったら、バイオを読んだらアカデミック一本槍のようです。もしかしたら「白い巨塔」の中も企業組織と一緒なのかも…というのは下衆の勘ぐりというものですね(笑)

それにしても、やはり勉強家のオススメはヒット率が高いですね。
他には、最近歴史を読みたいなーと思ってたので、井沢元彦「逆説の日本史」シリーズを紹介されました。これもかなり面白いので追々レビューを書きたいです。私から黄昏さんへは、御礼に小熊英二「単一民族神話の起源」をオススメ(参考:私のレビュー)してきました。

◆キャリア開発:本命一筋が良いのか、浮気OKか

話は変わりますが、「定説」「常識」とは異なる視点を提供している井沢氏も小熊教授も、その経歴はアカデミック一本槍ではなく、前はマスコミ関連などの仕事をされていたんですよね。沼上教授のように「その道一筋」で来ても、自らが経験しない企業経営について地に足の着いた言葉で語れる人、井沢氏・小熊教授のように「異能の人」、新鮮で柔軟な着眼点・仮説を導き出す人。キャリア開発上、改めて色々考えさせられました。

自分自身が経験していなくても現場を語れる人・そうでない人の差、一見繋がりのない分野におけるExpertiseを肥やしにいい仕事に昇華できる人・できない人の差って、いったい何なんでしょうね?

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