Pandora's Bundle
April 06, 2004
引き続き、市場における「効率性」「多様性」の役割・バランス・トレードオフについて、考えてみたいと思います。
しつこくってスイマセン。
「効率性と多様性のあいだ (2)」に対するmeta-oさんからのTrackback:「生産性原理と創造性原理」
http://www1.kcn.ne.jp/~ikoma/mt/archives/000010.html
「効率性と多様性」というキーワードを敷衍して、非常に興味深い議論を展開されています。
ご自身の体験を盛り込んでいて説得力もあって面白いので、皆さんもぜひご一読ください。
同じ環境が続く場合は、生産性を極端まで追求していくのもよいかもしれない。その環境に最適なものだけ存在するのがいちばん効率がよい。しかし、環境が激変する時期には、一網打尽となってしまう危険がある。そのような時期には、多様な存在の中から新しい環境に適応したものが生き残る混在型の方が有利だ。そして、これは稿を改めて述べてみたいが、長い目でみれば環境の変化は永遠に加速し続け(てい)るというのがわたしが密かに抱いている仮説だ(「IT革命」が完了して、平穏な時期が再び訪れるなどと期待してもむだだ。「IT革命」ということばは死語になろうとも)。
全体主義に対する民主主義の優位性もこのコンテキストの中で捉えることができるのではないだろうか。そういえば、わたしは制服がきらいだ(自分が着る分には)。
私が前回までのエントリを「効率性と多様性のあいだ」とネーミングしたのは、(あまり考えがクリアにまとまってなかったのでハッキリ書けなかったのですが、) meta-oさん同様、効率性と多様性は、決して二者択一の決断ではなく、同じ会社の中でも、両方を共存させていくためのバランス(時に6:4、3:7、みたいに)を追求し続ける営みなのではないか?と思っていたからなんだろうな、と、気づかされました。
サプライチェーンの効率に優れた企業はそうでない企業に比べて業績が良い、という調査結果 は幾つかありますが、同時に、コスト重視・効率重視しすぎるあまりに将来の成長に対する視点からのIT投資を行なっていない企業は、長期的に見ると、「次のヒット商品」が出づらくなったり、価格競争に巻き込まれて利幅が薄くなる傾向があることも分かっています(ITポートフォリオ戦略論)
自分のサイズを探していくこと、その瞬間・瞬間に最適なバランスを追求し続けて行くこと、に意義があるのではないかな、と。
バンドルというテーマがこれほど問題になるのも、市場の多様性をいかにして維持するかに密接に関わるテーマだからなのではないか、と思いを新たにしました。
とりわけ「情報」という無形財を売るビジネスでのバンドルのコストは非常に安いため、これを禁止するのは「パンドラの箱」を開けるようなものだ、と指摘しているArnold Kling氏の「Pandora's Bundle」を今日は紹介します。
What George Stigler showed is that ordinary intuition about bundling is wrong. Your intuition is that the reason that the seller engages in bundling is to force you to buy something that you do not want. However, as Stigler pointed out, if that were the case, it would be cheaper for the seller to leave out the unwanted good and just charge you for what you want. That is why grocery stores do not bundle milk with broccoli -- it's cheaper for them just to sell you the milk.
まず、バンドルに対して消費者が抱く直感というのは多くの場合間違っている。バンドルとは、顧客が欲しくないものを強制的に買わせるものだ、と考えている。しかし、売り手にとっては、顧客が欲しがるものの対価だけを貰いつつ、欲しがっていないものも付けてあげるほうが安く付くからバンドルしているのだ。食料品店は、決して牛乳とブロッコリーをバンドルしないが、それは単に牛乳だけ売る方がバンドルよりコストが安いからだ。
Information goods are almost impossible to sell without bundling. As Carl Shapiro and Hal Varian pointed out in their classic book Information Rules, information goods are characterized by very low marginal cost of production and distribution, as well as by uncertainty on the part of the buyer as to the value (until you've actually obtained the good).
情報という商品は、殆どバンドル無しで売るのは不可能だ。Carl ShapiroとHal Varianが古典的名著「Information Rules」で指摘しているように、情報という商品の特徴は、製造・ディストリビューションの極めて低い限界コストにあり、また、買い手にとっての価値は実際に買ってみないと分からない不確実性にある。
Microsoftについては、以下のように述べています。
I am an investor in a small, privately-held software company developing a product in a space where we expect Microsoft will someday have its own offering. The way that we look at it, when Microsoft chooses to enter this market, they will have to decide whether it is cheaper to buy our company or build the software themselves. That "make or buy" decision does not depend on whether Microsoft chooses to sell the product separately or not. Instead, the decision depends on whether they think that the product we have is worth more than the cost that they would have to undertake to develop a viable competing product. If they believe that they can develop a product more cheaply and effectively internally, then they will choose not to buy our company. In that case, we will have to compete with them, and that may be difficult. But that's life.
自分は小さいソフトウェア会社に投資している。Microsoftが、そこと同じ分野で勝負しようと思ったとき、そこよりも安く、良い製品を社内で作れると思えばそうするだろう。もし、その会社を買った方が得だと思えば、買収するだろう。その「作るか、買うか」の決定には、Microsoftがそれをバンドルして売るかどうかは関係がない。もし、Microsoftが、その会社より安く、良い製品が作れると踏んだら、Microsoftと今日そうしなければならない。難しいだろうけれども、それが世の常なんだと。
もう少し突っ込んで言えば、Microsoftよりも安く良い製品を作れば、Microsoftに高い値段で会社を身売りするなり、競争で勝つなりできるじゃないか、というところでしょうか(厳しいお言葉ですが)。でもまぁ実際、アメリカの大きい会社って、買収の連続ですものね…。
これって、本当に難しい問題だと思います。
選択肢が多いのはいいことだ、と多くの人が信じる一方で、選択肢が多くなればなるほど、消費者は選ぶのが面倒になるので(オンライン音楽販売について考えた際に、消費者が選べなくなる事象について少し触れています)。
法学部出身だけに「権利は不断の努力を持って維持すべし」が信条な私としては、選択肢がなくなるのがイヤなら、多様性を維持すべく反骨精神で。たとえ経済性が悪くてもマジョリティと違う選択をしましょう、と、改めて思うのでした。
ちなみに、「Pandora's Bundle」の最後の方では、バンドルは民間だけで起こってる問題じゃなくて、政府もそうだ(ある省庁に対する特定の利害を有する人以外にとって、その省庁以外に対する予算は単なるカネのムダだが、選挙の時は「この党の政策」と、バンドルされたパッケージを選択するしかないから)という論点を指摘していて、面白かったです。
大きくご紹介いただき、ありがとうございます。
イノベーターのジレンマにおける先進企業の陥る罠は、生産性を追求しすぎた結果ではないかと思い始めました。
また、民主主義と全体主義に関しては、全体主義の対極にアナーキズムがあって、その中庸のところにある最適な解が民主主義なのかもしれません(Stuart KauffanのAt Home in the Universeにそのようなシミュレーション結果があったように記憶しているのですが、ちょっと手許に本がみつかりませんでした)。
ノービス・ブロガーなので、毎日どきどきモノです。
Posted by: meta-o | April 07, 2004 at 08:35 AM
Impressive blog! -Arron
Posted by: rc helicopter reviews | December 21, 2011 at 10:29 PM