効率性と多様性のあいだ
Pandora's Bundle

効率性と多様性のあいだ (2)

Microsoftのバンドル問題に対して、示唆に富むコメント・Trackbackをありがとうございました。
考えがまとまらない段階で、とりあえず「どうして?」と球だけ投げて、放置してしまってすみません。
ただ、前回エントリしてから急激にPVが増えたので、この問題に対する世間の関心が非常に高いということを実感しました。

皆さんにお返事しながら、このテーマについて、もう少しまとめてみたいと思います。

最初に、私が気が付いた、Microsoftのバンドル問題の論点を二つほど挙げます。


  • 顧客の「選択肢」を確保するということ。
    たとえIEやMediaPlayerがその分野でメジャーな製品だったとしても、マイナーな製品を使う顧客も、必ず存在する。Microsoftは、「Windowsは使うが、IEやMedia Playerを使わない顧客の自由」を尊重する必要がある、ということ。
  • Microsoftが大きくなりすぎることに対する懸念。
    顧客の側からみれば、1社が市場を独占すると、価格統制やサービスの悪化などの「負の側面」が出て来る可能性がある。また、アメリカ以外の国の政府の立場からみれば、IT業界でアメリカ製品が「輸出超過」の状態は、自国経済保護の観点から望ましくない、という思惑が働いているのではないか。

以下、今回のEUの「お裁き」がMicrosoftに、そして市場にどのようなインパクトをもたらすか、考察してみます。

そもそもMicrosoftの独禁法問題が高まってきたのは、Windows95や98の時点で、プレインストール機を売ろうとするPCメーカに対して、MicrosoftのOSをプレインストールしたいなら、IEやMedia Playerも必ず一緒に抱き合わせでつけろ、その分の金を払えとMicrosoft側が強制していたという部分が焦点だったはずです。

電話のバンドルも面倒なら一社に任せられますが、あくまで選択肢の一つであり、ユーザーが個々を別々に選ぶ権利もありますよね。PCの場合はIEが使いたくないユーザーは他のブラウザもインストールできますが、OSに付随しているIE分の料金を無駄にMicrosoftに払っているというのが良くないという考え方だと思います。(前エントリに対するTAKさんのコメント)

なるほど、これは非常にリーズナブルです。
確かに、電話のバンドルも、「ウチのローカル電話サービスを使うなら、携帯もウチにしなさい。そうでないとローカル電話サービスも売ってあげない」と言い出したら、それは問題大アリですよね。IEやMedia Playerを使いたい人はバンドル版を買えばいいですが、現状では、それらを使いたくない人にとって選択肢がないわけですから。

ただ、バンドル版・アンバンドル版ふたつのWindowsを販売せざるをえなくなったとして、それが、Microsoftの市場支配力にどれだけのインパクトを及ぼすのか?と考えると、実はあんまり影響力はないのでは? という気もします。

だいたい、QuickTimeもRealPlayerもBasicなセットはFreeで配布しているのである。ここでMediaPlayerに$50という値付けをしたところで、市場価格から考えてもあまり説得力は感じられない。せいぜい$10かそこらだとして、次に出てくるのは、ユーザーはどこからOSを入手するか。$2,000の買い物をしようというときにプリインストールのOSでMediaPlayerなし版が選べてそれが$10安くなるのでそっちを選ぶか?全体から見ると0.5%ということになるが、これだと他のrebateの方がいっぱいつきそうだ。「キャンペーン期間につき、$50のmail rebateがつきます」の広告文字のほうがインパクトがありそうだ。(前エントリに対するダンナからのTrackbackより)

そうなのだ。販売価格全体からみたら、IEやMedia Playerの占める金額はきっとごくわずかだし、Microsoftぐらいの財力があれば、痛くも痒くもないメールリベートで一気にシェアを挽回できてしまうだろう。余分なお金を払って、なおかつ、IEやMedia PlayerがバンドルされてないWindowsを買おう、等というヒネクレモノ、もとい、気骨のある人(笑)はどれくらいいるんだろう?

※ ちなみに、ダンナのエントリでは、今回の制裁金がMicrosoftに与えた影響力を、「諭吉さんが財布に5人いるときに吉野家で特盛と味噌汁レベル」と喩えている。分かりやすい(笑)

というわけで、「アンバンドル版のWindowsも売りなさいね」というお裁きは、名を捨て実を取ったMicrosoftに対して、形式上は威厳を保つための、EUの苦肉の策なのかな、というのが、現時点での私の意見です。

加えて、もう一つ、意義があるとしたら、先に紹介したEconomistの記事にもあるように、次のバージョンのOSで実装されるとみられるサーチ機能(コードネーム:Longhorn)に関しても、コレをセットにしないとOS売ってやらないぞ、という、強制抱き合わせ販売はさせませんよ、と釘を刺したことでしょうか。

オチとしては、(夫婦漫才状態で恐縮ですが、)

どうやら、Microsoftを打ち倒すには、Microsoftが打ち出すサービス・製品がたどり着けない領域を別に築き上げる必要がありそうだ。例えば「現在の」iTunesとiPODとiTunes Music Storeのように。99¢を5000万曲ダウンロードしたところで、$400を200万台売り上げたところで巨人の地位はそう簡単には揺らぎそうに無いが、結局巨人を倒すには巨人以上のアイディアとそして何よりもその実行が必要なのだろう。

やっぱり、ココかなぁ、と思います。

うちの祖母の口癖なのですが、「どんな商売にも、一度は必ず良い時がある。」つまり、ずっと繁盛し続ける商売なんてものはない。でも、やっていれば、いつかは良い時が巡ってくるものだ、そう信じて石にかじりついてガンバレ、ということらしいです。

ところで、私が、「どうして電話のバンドルはいいのに、OSがブラウザバンドルしちゃダメなのさ?」と最初に思ったように、「バンドリング」に関しては、アメリカの経済学界でもちょっとした話題になっていたみたいです。以下、色んな経済学者等のコメントを載せておきます。喧々諤々っぷりが面白いのでご参考までに。この問題、簡単に答えが出ないんだなぁ、ということが分かっただけでも貴重かも。

まず、「OSがブラウザをバンドルするのは良くない派」の意見ですが、

UC BerkeleyのBrad DeLongは、

Remember the days when there was not one single dominant browser that came preinstalled on 95% of PCs sold? Back then there was ferocious competition in the browser market, as first a number of competitors and then Netscape and Microsoft worked furiously to upgrade their browsers and add new features to them. Most of these new features turned out to be idiotic. Some turned out to be very useful. Progress in making better browsers was rapid, because browser-makers wanted to make a better product and any new idea about what a browser should be was rapidly deployed to a large enough user base to make it worthwhile for web designers to try to use the new feature.

And now? There is no progress in browsers at all. Why should anyone (besides crazed open sourcies) write a new browser? Why should Microsoft spend any money improving its browser? The point of giving Internet Explorer away for free is to protect Windows's market, after all.

「Internet ExplorerがNetscapeと競争してたから、あんなに機能が良くなったんじゃないか。今はどうだ?全然改善していないじゃないか。もっと競争しろ。」と言わんばかりのイキオイです(この人はいつもイキオイがあるのですが)。

産業界(?)代表・シリコンバレーのDan Gillmorの意見は、

Jon Udell says Firefox fills the IE void by being a better browser than Microsoft's Internet Explorer, which has stagnated since Microsoft destroyed serious competition in the browser business. I use Firefox, too,but unfortunately it doesn't fill the void enough to matter. (中略) But even on Windows, IE remains the default because other applications rely on it. And one reason they rely on it is that it's the default choice; end users rarely change the defaults.

自分はFirefoxを使ってるし、IEより良いブラウザだと思う。でも、問題は、ブラウザとしての良し悪しじゃなくって、WindowsではIEが今でもデフォルト(基本設定)だし、エンドユーザというのは滅多にデフォルトを変えないものなのだ。

とのこと。UCLAのBainbridgeは、

Yeah, I know some antitrust experts opine that bundling is good for consumers. And, yes, some of them don't even work for Microsoft. But I don't see it. Bundling of private goods is fundamentally anti-competitive and, accordingly, reduces innovation.

バンドリングは基本的に競争を阻害する、それゆえにイノベーションを阻害する、と。

それに反して、バンドル容認派のArnold Klingは

Is it wrong for an operating system to come bundled with a media player? Then why is it not also wrong for a car to come bundled with a media player (i.e., a radio)? Is it wrong for two cable channels to be bundled? Then is it not also wrong for CNN to have a bundle that includes Lou Dobbs and Larry King, given that some people want to watch one but not the other?

Bundling is everywhere. Phone plans that offer flat rates rather than by-the-minute pricing? That's bundling. Computers that are sold complete with monitors, keyboards, and speakers? That's bundling. Cell phones that are sold with cameras and WI-FI? That's bundling.

Regulators could argue that bundling by Microsoft or the cable companies needs to be regulated because those companies have monopoly power. But I would rather see product specifications and pricing set in a market, however imperfect, than set by a government bureaucrat. At best you are exchanging one uncompetitive decision process for another.

OSがMedia Playerをバンドルしちゃいけないって?じゃあ車がラジオをバンドルするのは?ケーブルチャンネルだって、CNNだってバンドルしてるじゃないか。電話会社だってそうだし、コンピュータ買うときにモニタやキーボードやスピーカーが付いてくるのはどうだ?カメラ付き・Wi-Fi付き携帯は?どこの業界にだってあるじゃないか。バンドルを禁止したとしても、他の非競争的な意思決定に変わるぐらいが関の山だろう。

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私は経済学にはあまり詳しくないのですが、○○派、みたいな流れが幾つかあるのだろうと思うので、これらの学者が、それぞれどの流派に属するか、マッピングして見て行くと、ますます面白いのかもしれませんね(どなたか、その辺りに詳しい方がいらしたら、ぜひご教授ください)。

Comments

ぜんがめ@元名無し

名無しで投稿してしまい申し訳ありませんでした。
バレバレでしたが...

独占による多様性が失われることによる進化の阻害という点、テクノロジー面ではもちろん組織における人間の役割というのにも適用可能でしょうか?

Tomomi

お返事が遅くなってすみませんでした。

そうですね。個人的には色んな人がいる組織の方が楽しくて好きです。

ただ、あの野中郁次郎先生ですら「官僚制は、絶対になくならない」と断言しておられるように、
階層型組織って、ある意味、非常に効率が良い(生産的)なのは確かだと思うんですよね。

どっちがゼッタイというものでもなく、状況によってどちらが適するか、どちらを重視するかは変わるのかなと思っています。

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