InnovationからRenovationへ
March 12, 2004
Trouble on Silicon Valley's doorstep
http://news.com.com/2008-1012_3-5171606.html?tag=nefd_lede
Oracleの元社長・Ray Laneのインタビュー記事です。
IT業界の未来については、世間には大きく二つの見方があるのではないかと思っています。一つは、「IT Doesn't Mater」、つまり、ITは既にコモディティ化しており、技術そのものがユーザー企業にとっての優位性をもたらすものではなくなった、という見方。もう一つは、いやいや、まだまだITが解決できるビジネス上の課題もあるんです、という見方です。
IT業界で働く私としては、後者の描く未来がやってくることを信じたいのですが、
Today, the post-bubble software industry is beginning to come around to Lane's way of thinking: Renovation, not innovation, is what's important.
に現れているように、どちらかというとITコモディティ化説に近い考えを持つLane氏のインタビューから、興味深いところをご紹介しつつ考察してみたいと思います。
The biggest challenge to him is in reorganizing his systems. Changing those systems is not easy. The more technology we have installed, the harder it is to change your business.
今日の企業の問題は、「システムを再組織化すること」であり、既にたくさんの技術を持っている企業にとって、システム・ビジネスのやり方を変更するのは大変なことだ、と、指摘しています。
Now, customers are looking for simplicity, integration and security across releases. They want standards-based software that doesn't require the labor expenditure of the past. Software CEOs have two choices: They can try to impose their proprietary methods on the market or they can adopt a new service-based approach to providing and maintaining software.
なので、顧客は、シンプルなものを求めている。このニーズに応えるために、ソフトウェア企業が取りうる二つの戦略-従来どおりの独自仕様・囲い込み戦略か、サービス・ベースのアプローチ-がある、とのこと。
この記事では、これ以上サービス・ベース・アプローチについて述べられていないので、彼の言わんとするところは推測するしかありませんが、2度目の波が来ていると言われるASPや、SOA (Service Oriented Architecture) 等が、それに相当すると考えられるでしょうか(実は、2004年のトピックとして、この二つは追うべきかな、と前から密かに思っていたんです。SOAは、私にとってはやや具体性に乏しい気がして、どう掘り下げたものか悩んでもいたのですが)。
In the past, when customers have asked for improvements, we've said, "Replace your old system with this new system." That's not true anymore. You've got to use the existing infrastructure and take advantage of information already there. During the last 10 years, we did modernize the infrastructure. Now, I can actually do the renovation. I don't have to knock it down.
業務アプリケーションのSE出身の私にとって一番実感がこもっていたのは、「もうインフラはある。既存の情報をうまく活用するべきだ」という指摘でした。
実は、言うは易しで、これは結構難しいはずだ、と思うのです。
典型的なFortune 1000企業では、平均して、アプリケーションを48個、データベースを14個持っていて、IT予算の7割はデータのインテグレーションに使われている(IDC)とか、35-40%のプログラミングコストは異なるデータベース・レガシーシステム間のデータのTransferに使われている(Gartner)と言われていますし、流通業界のサプライチェーンでは、小売=メーカ(もしくは卸売)間でのやり取りに使う商品カタログデータが3割間違っているというデータ(A.T Kearney)があり、これがRFIDを導入する際に問題になるだろう、と言われています。
どういうデータを、どうやって社内で管理していくか。データのモデリングと、更新・同期のプロセスを整理するというのは、それだけで大変なコンサルティングになると思います(…うちの夫がそういうのやってた気がします。そのうち守秘義務に触れない範囲で語ってもらおうっと)。
ちなみに、ソリューション提供側が意識しなければならない、顧客の今後の動向ですが、「これからの企業がやらなければいけない5つのこと」として、以下のように語られています。
The new enterprise has to do five things: respond and deliver to support demand; grow or shrink, based upon changes in demand; operate any time, anywhere, under any conditions; minimize asset and labor content per unit of production; and provide real-time transparency of operations, both internal and external.
不確実性の高い環境で、柔軟に規模を変えられること(そのため、資産はなるべく少なく持つ)いつでも、どこでも需要に応じてオペレーションを行うこと、オペレーションが社内外の人にリアルタイムで、ガラス張りで見えること、だそうです。
イノベーションをリードする土地・シリコンバレーの今後について、Lane氏は次のように語っています。
I would never say Silicon Valley is dead. We'll just have to learn to do things differently than in the past. (中略) It's like the home-building world. Most new home builders are not renovators, and most renovators are not new-home builders. They require different skills. But renovation is just as important as building new homes.
決してシリコンバレーは死なない。ただ、これからのやり方は、これまでとは違うものになるだろう。新しい家を建てるビジネスと、メンテナンスするビジネスがあるように。
この指摘は、ある産業が成熟してくると同時にアフターマーケットの市場が成長・成熟してくるトレンドとも合致しているので注目すべきポイントだと思います。例えば、住宅、それから自動車あたりでしょうか。アメリカは、日本に比べると、住宅そのものの寿命が長いこともあり、中古住宅の市場が成熟していると言われています。日本では、新規住宅の建設は景気をはかる重要な指標と考えられており、100万戸建設されるかどうかが一つの目安になっているほど(だったはず、確か)ですが、中古住宅市場はまだまだなのですが。
また、IT産業の今後を考える上で、抜きでは語れない海外アウトソーシングについては、
If you look at our portfolio companies, out of about 60 that could be doing something offshore, 60 percent are already doing it--mostly in India but also in China and Canada. We're talking about it primarily as a cost move, where quality assurance and testing is moved offshore. You can't compete if you have all your resources in California.
彼の会社が投資しているポートフォリオ企業でも、6割が何らかの形で海外アウトソーシングを活用しているとのことです。
さて、この後、IT企業はどこに活路を見出すべきか?
The whole idea of information access, communication around the world, may be the next one. (中略)until biotechnology overtakes it.
逆に、世界中に分散した仕事の仕方になることから、情報へのアクセス・コミュニケーションがカギであろう、としています。
データのモデリングと、更新・同期のプロセスを整理するというのは、それだけで大変な、というより、どこで折り合いをつけるかという議論にちかい。ヨメの言うところのアプリもDBもたくさん問題や異DB間のデータ移行問題、データ不整合問題を回避する方向にデータモデルを見直すということは、データの整合性という観点からモデルと更新・同期のプロセスを整理すると言うことを意味する。このどっちをとるかはトレードオフ関係にあるのだが、整合性を突き詰めると一般的にはおそらく以下の2つの問題に直面する。
1)モデルはデータの一意性および更新時の整合性担保を重視したものとなり、これがデータの参照性を著しく低下させる。
→12個データベースがあるということは、ひとつのデータであっても12の別の観点やデータの連関から参照したかった、といういいかたをすることも出来る(システムとは所詮はデータを登録するか参照するかという2つの機能しかない)。これをひとつのモデルにまとめようとすると、どうしても特定観点からの参照性は犠牲にせざるを得なくなる。結果的に12の観点のうちいくつかは参照性が著しく損なわれ、事実上使用不能となるものも出てくる。
2)このとき行き過ぎた整合性の追及は、更新・同期のタイミングという点において、業務プロセス自体をデータの整合性を担保することを優先したものにすることを求める
→更新・同期のプロセスとはとりもなおさず業務プロセスそのもののことである。競争力の原点としてプロセスを捕らえるならば、どのようにしたら生産性を高められるか、とか、どのようにしたら独創的なアイディアをビジネスに結び付けられるか、といったことを目的として設計するべきだろう。もともと業務プロセスとは、そこで発生したデータを後で参照したときにそれが整合性のとれたきれいなデータとなっていること自体を目的にするべきではない(勿論データは正しく記録されるべきである、ということを否定しているわけではなく)。どちらかというと設計者の能力の問題だが、きれいなモデルときれいなデータを追求するあまり、ともすると現実業務には則さない業務プロセス=更新・同期タイミングを強要することがある。
要するに必要なことはこのバランス感覚なのだが、実際にはこれを備えた人間は非常に少ない。
Posted by: だんな | March 12, 2004 at 12:07 PM
実は、ダンナとは朝っぱらから電話でこの話題で盛り上がって、一定の結論に至りました。
14個のデータベース云々の話の落としどころは、ダンナが言うように「どこまで正規化するのか」に尽きるわけです(この点は私もAgreeだし、元々私もそう思っていたのは、ダンナには行間から伝わっていたらしい)。
しかも、どこまで正規化すべきか、どこまで崩したまま残しておくか、その判断ができる人なんてフツーはいないし、いったん作ったデータを変更する労力を考えるとあんまりやりたくないよね、と。
なので、現実的な答えとしては、データベースに対するアクションて基本は「更新」「参照」しかないわけだから、更新はともかく、参照のほうは、難しくアレコレ考えるよりも、XMLかなんかにゴワーっと吐き出させてやって、Googleで検索した方がよっぽど早いのでは?(実際は、計算とかもあるので、考慮しなきゃいけないことはあるのだが)
というのが、このblogでは伏せていた私の密かな結論だったのですが、実はダンナも同意見だったことが判明しました。
そんなわけで、「Next Big Thing は、セマンティックWebに違いない」という日米電話会議の結論をここに書いておきます(…こういう夫婦ってどうよ、と自分に突っ込み)。
Posted by: Tomomi | March 13, 2004 at 01:33 PM