異なる価値観に耳を傾けるということ
Social Networking の可能性

アメリカ、そしてシリコンバレーにおける軍の存在感

FPNのsugimotoさんとのやり取りで、今まで書くのに少し気が引けていたネタを出そうと思い立ちました。
※ 火種となったエントリ:「勝つための状況判断学

戦後日本の歴史教育しか知らない、「戦争を知らない子供たち」の1人である私が、アメリカに来て、いちばん驚いたことは、この国は臨戦体制にある ということです。(まぁ、渡米してすぐに開戦したので、余計そういう印象が強まっているんだと思いますが)

もう少し具体的に言うと、政治・経済・アカデミックの世界に軍需が与えている影響力の大きさに、驚きました。 例を順不同で挙げていきますが、

■なんたってお金持ち

まずは、2005年のアメリカ政府予算をご覧ください。
http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2005/tables.html
国防総省 (Department of Defence: 以下DoD) が ザックリ政府予算の半分を占めていることがお分かりいただけると思います。具体的な各省予算の内訳まで詳しくは知りませんが、IT予算に関しても、全省を通して、DoDが半分を占めている構図はほぼ同じだそうです。

ちなみに、DoDのIT投資額は、一組織としては世界最大(民間企業を含めてもぶっちぎりで)だそうです。
経営におけるIT活用で常にエクセレントカンパニーに名前が挙がるWal-Martをして 「弊社のIT投資規模は、DoDに次いで世界で2位」と言わせた、という話はあまりに有名です。

■しかも研究熱心

DoDの予算の内訳を見て行くと、
http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2005/defense.html
予算の10数%をR&Dに費やしていることが分かります。

FPNで話題になったシナリオ・アプローチや、ゲーム理論の発展に多大な貢献をしたランド研究所も、元々は軍需用途の研究機関、「ハーバード流交渉術」も、テロの際の人質交渉での経験や研究に基づいて民需に転用された(確かそう習った)、等など、先進的な研究が軍によって行なわれていた例は枚挙に暇がありません。クリントン政権下で行なわれていた、TRP (Technology Reinvestment Project) という軍事技術の民需転用も、今は下火になったようですが、今も、無線ICタグの先進ユーザとして、研究に貢献しつつ、数十億個のタグ需要を作り出すとも言われており、その存在感は無視できないものがあります。やや脱線しますが、ロジスティックス (Logistics) という単語がもともと「兵站」を意味する軍事用語だったように、アメリカにおけるSCM分野の理論は、産・学ならぬ、産・軍・学で育まれてきた色彩が濃いことも、恥ずかしながら、この国に来るまで私は知りませんでした。

若者が自由なアイディアを基に起業している、と世間で思われているかもしれないシリコンバレーですら、その成功に政府が大きく寄与していると言われています。「シリコンバレー なぜ変わり続けるのか」では、政府が果たした3つの役割が指摘されています(この本では、直接的なスポンサーシップより、起業を促すルール作りでの間接的貢献のほうが大きかった、と言われています)。

①企業の行動を律するルールの作り手
②企業の製品の買い手
③研究と開発初期の資金の提供者

ところで、DoDがアメリカの情報産業をリードしていたのは5年前までで、インターネットブーム以降は、むしろ先進的な民需がDoDに貢献している、という話もあるのが面白いところです。とは言え、スタートアップにとって、DoDが顧客リストに名を連ねることが安定した収入源を意味するのは今も変わらないそうです。クリステンセンブームで、最近は、「ローエンドから」始まるイノベーションが注目を集めているとは言え、「お金持ちを相手にする商売」がビジネスの王道だとすれば、DoD相手は王道中の王道、と言えるでしょうか…。

参考:Managing Supply Chains: What the Military Can Teach Business (and Vice Versa)
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■IT以外でも

手元にデータがないのでうろ覚えで恐縮ですが、製造業におけるFortune 500の売上規模を見て行くと、石油が断トツのNo. 1 らしいです。次いで、通信、ユーティリティ、もう少し規模が落ちて医薬品、そして航空/防衛と続きます。やはり軍需に関連しそうな産業がアメリカでは一番儲かっている というのはちょっと衝撃的な事実でした。

やや脱線しますが、NY Times大統領選特集インタラクティブページへ行くと、各候補の現在の手持ち資金が出て来ます(それも日本人的感覚から言うと随分えげつないのですが。こんなに選挙にお金が掛かるっていうことを、アメリカ人はどう思っているのかが興味深い)。 現職のブッシュ大統領の資金が、民主党の事実上残った二人の候補を大きく上回っているのが一目で分かります。エドワーズ氏の10倍近く、ってところでしょうか。これも実家のファミリービジネスが石油だからかなぁ…などと、何とも言えない気持ちになります。それに、(リンクご覧になった方はお気づきでしょうが、)2005年のアメリカ政府予算、何気にDoDの予算、増えてますしね…。

政治における軍隊、そしてアメリカの大統領選については、色々思うところがあるので、これもそのうち書きたいと思います。

最近(に始まった話じゃないだろう、とツッコまれそうですが) 妙に重い話題が多くてスミマセン。 まぁ、これも、「そうか最近軍事ネタにちょっと凝っているんだな」ということでお許しを。読む人がハッピーになるような話(hirocさんの「人は感情の生き物だ!」のあったかい雰囲気に実は憧れていたり…。blogではネタにしませんが「ほぼ日刊イトイ新聞」も実は大好きです) も書きたいなぁ、と思ってはいるのですが、イノベーション&軍事ネタを心行くまで書いたらそのうち。

Comments

maida01

DoDの予算の話には納得しました。やはりアメリカは軍需産業ですね。インターネットやプロジェクトマネージメントやITがらみはDoDから発しているものが多いですものね。
日本ではどう対処していけば良いのでしょうかね。

Tomomi

maida01さん、
コメントありがとうございます。

何の裏づけもない直感的な意見ですが、私は、日本企業は「コンセプトメイキング」が苦手なので、他所からはあまり分からないだけで、実はけっこう色々内部では頑張っている、という印象を持っています。
アメリカのDoDがらみの技術・学問の発展は、ある意味、命が懸かっているので必要に迫られてのものですけど、日本企業のは、そういうプレッシャーなしで、社内的な努力で培われたノウハウですので、平和裡に、これだけ社会的なモラルが保たれつつ成長できたというのはある意味スゴイことではないか?と思っています。
(それをいかに国として知的資産として共有し、国としてのリターンを最大化するかは今後の課題かもしれませんが。)

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