Why Software Quality Stinks
Cost-of-Living Arbitrage

イノベーションを阻害するもの

※2月4日 若干修正してます。

今日は(も?)課題提起のみですが、「イノベーションはどうして難しいのか」について、思うところを書いておきます。

ピーター・キーンは、業務担当の管理職とIT担当責任者の間で交わされる平均的な会話は、お互いに独白をしているようなもので、意思の疎通を欠いていると述べている。業務担当の管理職とIT担当責任者がとんちんかんなことを言い合い、しかもお互いに専門用語を使うため、不毛な会話を交わすのを目撃した人は多いだろう。IT担当責任者は、ビジネスの本質についても理解する必要がある。つまり、IT担当責任者は、ITの知識だけでなく、企業のビジネスの問題や方向性についても熟知していなければならない。一方、業務担当の管理職は、自社のIT能力について、熟慮した上で意思決定をする責任がある。双方が歩み寄るように努力することによってのみ、コミュニケーションが円滑になり、IT投資は成功するのである。 (ITポートフォリオ戦略論

今はアメリカでリサーチャーみたいな肩書きが付いているのでR&D系とたまに間違われますが、私は元々、文系出身ということもあって、技術に対する思い入れはそれほど強くありません。「技術は顧客の課題を解決する手段に過ぎない」というぐらいの現場派で、クライアントと机を並べて仕事をしているときが一番アイディアも沸く、というタイプです。とは言え、ものをつくる技術者の匠の技に対しては(自分にはないだけに)尊敬の念は持っています。

しかしながら、R&Dや技術畑の人にありがちなのは、顧客の困り具合よりも自分がつくりたいモノをつくるのが優先、もっとハッキリ言ってしまえば、顧客の悩みが本当に解決するかは二の次、技術的に新しくて面白いことをやりたい、というスタンスだと思うのです。ITポートフォリオ戦略論を引用するまでもなく、IT関連の仕事に携わった方なら、一度くらいは顧客と技術者のギャップを感じたことがあるのではないでしょうか。

人間、やりたいことをやるときが一番パフォーマンスが上がりますし、自分の仕事に対する拘りは多かれ少なかれ誰でもあります。ですので、技術的な新奇性にこだわる気持ちがいちがいに悪いとも言えません。しかし、会社は、顧客からお金を貰ってナンボのものです。


  • どうすればR&Dの打率を上げることができるのか。
  • どうすれば技術者のつくりたいモノと顧客の困り具合の間に横たわる暗くて深い溝を埋められるのか。

私はSIer勤務、しかも業務アプリケーションの現場育ちなので、顧客が求めているのは新しいとか面白いではなく、誰がどういう価値を提供してくれるのかに尽きる、と思っていました。しかし、実際にインプリするのは外資系のパッケージベンダの製品であることが多く、一体彼らはどうやってコンセプトを顧客のニーズの前に製品化しているんだろうか、と、思っていました。

そんなわけで、当面は、上記に挙げたような課題意識のもとに勉強して行きたいと思います。(時々脱線したり脇に逸れたりもするかとは思いますが)

ちなみに、これに関連して読んでいる本は、

クレイトン・クリステンセン「イノベーションへの解」
R・M・カンター他 編「イノベーション経営」
野中郁次郎他 著「イノベーション・カンパニー」
Boutellier他 著 "Managing Global Innovation"

という感じです。

Comments

お

イノベーション理論のような理論は勉強したこと無いですが、
イノベーションって、各々その技術を受けた個人の意識の変化のことだと認識しています。携帯でメールをやり取りできる仕組みの登場はイノベーションを起こしたけど、携帯が10g軽くなった、とかバッテリの持続が1時間伸びたとか、カラフルになったとかではイノベーションにはならないと。。
アンケート取れば多数意見となるニーズではあるし技術力は要求されるけど。

ニーズを唱える人たちも想像もしてない新しいシーズにこそイノベーションがある、つまりニーズ指向では、イノベーションは起こらないと思います。

(あえてニーズというなら、100人に1人だけが言い出すようなマイナーなニーズには種があるようにも思いますが。)

お

追加、というか補足です。
SI現場は、私のコメントした領域と異なるので、必ずしもイノベーションの起こし方ってのも違うのかもしれないですね。。
(この場合イノベーションってその段階に世に存在する技術の組み合わせを変えて、新しい使い方を提案することによる意識変化の提供ですかね。。)

Tomomi

おさん、初めまして(で、いいのでしょうか。メルアドがないので知り合いなのかどうか分からないもので。。)

コメントいただいたのは3つめのBulletについてのご意見でしょうか???

最初にお断りした通り、私自身もまだ「こうすればイノベートできる」みたいな答えは持ってないんですよ。残念ながら。

提起いただいた課題に対して、改めて自分の頭を整理してみたんですが、私自身の考える「イノベーション」の定義は、「新しい市場を創造する」もしくは「既存市場であってもこれまでになかった価値を提供する」ことです。単に、新しい技術を作り出すだけではなく、それが実際に顧客に買ってもらえる、ということを前提に考えています。

おっしゃる通り、シーズは、大事だと思います。
「ビジョナリー」と言われて、常に革新的な製品を世に出す会社にとってはR&Dは生命線でしょうから。

私が言いたかったのは、新しい技術が顧客を獲得するためには、「つけ込むスキ」が必要だということなんです。このエントリで私が立てた問いを言い換えれば、「誰も買ったことがない商品を買ってくれる人をどうやって見つけるか」です。R&DはR&Dで、最先端を追い続けていいと思うのですが、最先端と市場の間に存在するギャップを「誰が、どうやって」見つけて、橋を掛けるのか?

この問いは、「R&D部門が今やっている研究がいつ・どれくらいのお金になりそうなのか」「どういう技術に幾ら投資するべきなのか」の判断は、どう行なうべきなのだろう?というテーマにも掛かってくると思うのですが。

先にお断りした通り、私自身も「じゃあ、どうすればいいか」の答えは持ってないのですが、エントリでご紹介した「イノベーション・カンパニー」という本で紹介されていた幾つかのSuccessfulな企業の共通点としては、技術は技術でちゃんとやりつつ、マーケットサイドの「一手先、十手先」をキャッチするアンテナと、それを事業化するための仕組みを持っているみたいです。

ここで注意しなければいけない点は、「マーケットの将来予測」をする際に、アンケート表みたいなのをつくらない、ということだそうです。これも私の経験なんですけど、「どういう商品が欲しいですか」と顧客に聞いて出てきた案をそのまま商品化してうまく行くことって少ないように思うんですよ。

顧客は、本当に自分が欲しいものが何か分かっていないことが多いので。

今の時点で私が持っているこの問いに対する一つの答えというか、仮説は、「イノベーション・カンパニー」の受け売りですが、シャープの例では、どこに賭けるか決める際には、10年後の社会がどうなっているのか、R&Dのみならず色んな部門の人があつまってワイガヤしながらシナリオを描くんだそうです。そのシナリオが実現した時に必要になる技術は何か?と考えて、投資戦略を立てる。当然、未来のことは誰にも正解は分からないのでリスクはあります。そこで、各シナリオの実現可能性に基づいてポートフォリオを組む、というアプローチかなぁと。

とりあえず、次の課題としては、「どうすればシナリオの精度を上げられるか」にフォーカスし、仕事の中で実際に試行錯誤しながら、走りながら考えて行くつもりです。

そんなわけで、3つめのBullet、表現が適切でなかったので削除しました。

コメントありがとうございました。

Naotake

>「どうすればシナリオの精度を上げられるか」

「受け身」でなく、「シナリオを生み出し、それに市場をノせるために何が起きなければいけないか」を考え、自分の描いたシナリオの実現に必要な社外の要素の発展を促すようなアクションを採る、というアプローチもあると思います。IT業界でいうと、マイクロソフト、インテル、昔とつい最近のアップルがそれをやってると思います。

Tomomi

Naotakeさん、

> 自分の描いたシナリオの実現に必要な社外の要素の発展を促すようなアクションを採る

Oh, コレは目からウロコでした。。。

言われてみるとおっしゃる通りです。
シゴトって、「受け身」より、自分からProactiveに提案して行く方がいいですものね。

貴重なコメント、ありがとうございます!!

P.S. 梅田さんblogでの記事、だんだんいつもの村山節の調子が出てきた感じがします。今後もがんばってください!(小心者なもので、CNETには恐れ多くてコメントできないんですが…苦笑)

Naotake

Guestblogへの励ましのお言葉、ありがとうございます。どうせならコメントしてくれれば良かったのに。最近、関心領域がオーバーラップしつつあるような気もするので、「対話」ということでいろいろ意見交換する機会も増えるでしょう。

Tomomi

Naotakeさん、

Guestbloggerお疲れ様でした!!
「緊張してます」って書いてから急にリラックスした感じがしましたよー。
憧れのbloggerとの交流、なんてオマケまで付いてきて、読者にとっても豪華なGuestblogでした。

> 最近、関心領域がオーバーラップしつつあるような気もするので

シゴトで頭がオーバーヒートしていまして最近寡作気味なので恐縮ですが、こちらこそ今後とも宜しくお願いします。

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